2025 10 21

「みんなで大家さん騒動」――2000億円超の集金と“配当停止”

「みんなで大家さん」は、1口100万円から複数の出資者が共同で不動産に投資し、運用収益(賃料や土地賃貸料など)を配当として受け取る仕組みとして人気を集めました。出資者は約3万7,000人、集められた資金は2,000億円超とも言われています。
想定利回りは年7%程度と打ち出され、「成田空港近く開発予定の土地」を対象にした「シリーズ成田16号」など、スケールの大きなプロジェクトがPRされてきました。

ところが、2025年8月~9月にかけて、出資者に対する配当支払いの遅延・停止が報じられ、解約申請を出しても書類が1年以上届かないといった深刻なトラブルに発展しています。
また、2024年6月には東京都および大阪府より、本事業を手掛ける販売会社・運営会社に対し、**不動産特定共同事業法(不特法)違反として業務停止命令(30日間)**が出されました。
このような経過から、「収益が出ていないのに配当が出されてきた」という疑念、「集金から配当する構図になっているのではないか」という指摘が一気に強まっています。


「ポンジ・スキーム」との酷似構造

上記の状況を整理すると、以下のような特徴が見えてきます。
これは、古典的な**ポンジ・スキーム(Ponzi scheme)**の構図に極めて近しいものです。

・高利回りを強調して集金

年7%などの比較的高い利回りを掲げ、一般個人から多数の出資を募った点。これは「早く投資すれば得する」という構図を促す典型です。

・配当が支払われてきたという実績提示

実際、短期間で分配金が払われる実績が出ていたことで、多くの人が「信頼できる商品だ」と判断した可能性があります。

・運用実態・収益源の不透明さ

成田プロジェクトの土地は“ほぼ更地”のままという報道もあり、事業収益を支える入居・賃料・運営が十分に進んでいなかった疑いがあります。

・配当停止・解約困難の発生

新規出資の減少や収益の出ない事業が原因となり、配当が滞り始め、解約申請に対する処理が遅れるなど「運用による配当」ではなく「新規出資による配当」という疑いが現実化しています。

・行政処分による事業停止、説明義務の不履行

開発許可未取得の土地を対象に含めていた、重要事項変更を投資家に十分説明していなかったなど、法律上の説明義務違反が明らかになっています。

このような点がポンジ・スキームの典型特徴と重なっているため、「みんなで大家さん」がその可能性を含む案件ではないかという警告が出ています。


なぜ「収益から配当」ではなく「集金から配当」になったのか?

健全な投資では、本来以下の手順が想定されます。
「物件を取得/賃貸収益を上げる」→「その収益を配当」→「事業終了時に元本償還」。
しかし、みんなで大家さんの例では次のようなズレが見えます。

  • 土地・施設が稼働できていない状態なのに配当が出てきた。
  • 出資者に説明されていた「物件の完成」「貸付事業の開始」が遅延・停滞している。
  • 解約を希望しても手続きが進まず、資金の返還が滞っている。
    こうしたズレは、 新たな出資者の集金で既存出資者へ配当を支払う という運営モデルを仮定せざるを得ない状況です。
    つまり、実質的な「集金→配当」の構図が生まれてしまった可能性があります。

法令面から見ても、不動産特定共同事業法では「契約前書面」「重要事項説明」「収支報告」などの義務が定められていますが、これらが投資者に適切に果たされていなかったという行政判断が出ています。
こうした制度の枠外で運用が行われてしまうと、収益構造そのものに疑義が残ることになります。


出資者が気づくべき「6つの警告サイン」

「みんなで大家さん」のケースを踏まえ、次のような観点を持つことが有効です。投資を検討する際のチェックリストとしてご活用ください。

  1. 「必ず儲かる」「高利回り保証」といった文言の強調
  2. 配当が支払われてきたという実績があるが、根拠となる収益や賃料データが不透明
  3. プロジェクトの進捗状況が公開されていない、または現地の様子が「ほぼ更地」などとの報道
  4. 解約希望者に対して手続きが進まず、書類が送られてこないなどの実例がある
  5. 行政処分・法令違反の可能性が公表されている
  6. 配当停止や延期が複数回発生しているにもかかわらず、説明が曖昧・借入金などで補填する旨の発言がある

これらのサインが一つでも当てはまるなら、「本当に収益で運用されているか?」を徹底的に確認する意志が必要です。


「みんなで大家さん」から学ぶべきこと

今回の事案は、不動産投資を検討する一般の方にとっても重要な教訓を含んでいます。

• 投資=収益構造が明示されていなければ危険

物件の仕組み、賃貸契約、稼働率、修繕費、売却スキームなど、収益の根拠が説明されていない投資は疑うべきです。
「イメージや将来性だけ」を売りにする案件には特に注意が必要です。

• 高い利回り・手軽な出資金・短期間という組み合わせは警戒すべき

この3つが揃っている案件は、魅力的に見える反面、収益の裏付けが弱いケースが散見されます。

• 法制度・説明義務を確認する習慣を

不特法や金融商品取引法など、出資先がどの法律の下で募集・運用されているかを確認し、行政処分の履歴なども調べることがリスク低減に繋がります。

• 投資は「収益→配当」の構造が原則

“集金→配当”という構図になっていないか、配当の原資がどこから来ているのかを逆算できる視点を持つことで、危険な案件を回避しやすくなります。


結びに:投資を“甘い話”にしないために

「みんなで大家さん」の騒動は、投資の世界では“いつもある”わけではありませんが、構図としては決して珍しくないものです。
「収益をあげてから配当する」という前提が崩れたとき、その投資は“資金の回し”にすぎなくなります。
それは、言い換えれば「集金して配当を回す仕組み」に変質してしまったということです。

投資を考える際に大切なのは、
• “本当に運用収益が出ているのか”
• “配当の原資が明らかか”
• “構造として持続可能か”

という視点です。
「みんなで大家さん」が提示してきた“魅力的な利回り”の影には、こうしたリスクが隠れていた可能性が強いと言わざるをえません。
だからこそ、甘い言葉や手軽さだけに耳を傾けず、構造と数字を問い続ける姿勢こそが、資金を守る第一歩となります。

投資は夢を実現する手段にもなり得ますが、同時に夢を失うリスクの舞台にもなり得ます。
「みんなで大家さん」から学び、冷静に、慎重に。
“収益から配当される構造かどうか”を見極める力を、私たちは持っておくべきです。

【本日の一曲】
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