10%引きセールで利益が増える理由
~「値下げ=損」ではない、数字で見る販売戦略~
先日、全国展開されている小売メーカーさんが恒例の10%値引きセールをされてました。
購入する商品が決まっている人はお得に購入できるチャンスでしたし、
セールだから来店して、買う予定がなかったモノを購入した人も、安く入手できたのでお得だったんだと思います。
ただ、お店側にはどんなメリットがあるんでしょう?
そこのところを考えてみました。
■1. 値引きなのに利益が増える?
「10%引きセールをやったら利益が減るのでは?」
多くの方が最初にそう感じると思います。
たしかに、1個あたりの販売価格を下げれば商品単体の利益率は下がります。
しかし、もし来店客数が増え、販売数量が伸びることで全体の売上が上回れば、
結果として利益の総額が増えることがあるのです。
値下げの目的は「単価を下げること」ではなく、
「お客様を動かし、売上総額を増やすこと」にあります。
■2. 基本の考え方:利益の構造を数字で見る
まずは、通常販売時の利益構造を簡単に見てみましょう。
【通常価格で販売】
- 販売価格:1,000円
- 原価:600円
- 利益:400円(=1,000円-600円)
- 販売数:100個
➡ 売上:1,000円 × 100個 = 10万円
➡ 利益:400円 × 100個 = 4万円
【10%引きセールを実施】
- 販売価格:900円
- 原価:600円(変わらない)
- 利益:300円(=900円-600円)
- 販売数:130個(セール効果で3割増)
➡ 売上:900円 × 130個 = 11万7,000円
➡ 利益:300円 × 130個 = 3万9,000円
この例では、1個あたりの利益は100円減っています。
それでも販売数が130個に増えたことで、全体の利益はほぼ同じ水準をキープしています。
もし販売数がさらに伸びれば――
【販売数150個の場合】
➡ 売上:900円 × 150個 = 13万5,000円
➡ 利益:300円 × 150個 = 4万5,000円
この場合、値引きしても利益は増加。
つまり、「販売数の伸び率 > 値引き率」であれば、
セールによって利益を拡大できるのです。
■3. セール効果のイメージ
通常販売:価格1000円 × 販売数100個 → 売上10万円/利益4万円
↓
10%引きセール:価格900円 × 販売数150個 → 売上13.5万円/利益4.5万円
【販売数が伸びると利益も増える】
| 状況 | 販売価格 | 販売数 | 売上 | 利益(単価) | 総利益 |
|---|---|---|---|---|---|
| 通常販売 | 1,000円 | 100個 | 10万円 | 400円 | 4万円 |
| 10%引きセール | 900円 | 130個 | 11.7万円 | 300円 | 3.9万円 |
| 10%引きセール(好調時) | 900円 | 150個 | 13.5万円 | 300円 | 4.5万円 |
→ 「販売数がどれだけ伸びるか」で結果が変わります。
■4. 「固定費」との関係も重要
店舗や会社の運営には、固定費(家賃・人件費・光熱費など)があります。
これらの費用は、販売数が増えても基本的に変わりません。
そのため、
販売数が増えるほど固定費の負担割合が下がり、
1個あたりの「実質利益率」が上昇します。
| 状況 | 売上 | 粗利益(売上-原価) | 固定費 | 最終利益 |
|---|---|---|---|---|
| 通常販売 | 10万円 | 4万円 | 3万円 | 1万円 |
| 10%引きセール | 13.5万円 | 4.5万円 | 3万円 | 1.5万円 |
値引きしても販売が増えれば、
固定費を効率よく回収できる=最終的な利益が増えるのです。
■5. 効果を判断するための基準
では、10%引きのセールを実施したとき、
どのくらい販売数(集客数)が増えれば「効果があった」と言えるのか?
これは、「値引きによって減った利益を取り戻すために必要な販売数の伸び率」を計算することで分かります。
【計算式】
値引き前後の利益を等しくするには、次の関係が成り立ちます。 (1−値引き率)×増加率=(通常利益率)÷(値引き後利益率)(1 – 値引き率) × 増加率 = (通常利益率) ÷ (値引き後利益率)(1−値引き率)×増加率=(通常利益率)÷(値引き後利益率)
が、直感的に考えるなら次の簡単式で十分です:
必要な販売数増加率(%)= 値引き率 ÷(利益率)
【例】
- 通常価格:1,000円
- 原価:600円(=利益率40%)
- 値引き率:10%
➡ 必要な販売数増加率 = 10% ÷ 40% = 25%アップ
つまり、販売数量が25%以上増えれば、値下げの効果がプラスに転じるということです。
| 利益率 | 値引き率10%のとき、利益維持に必要な販売数の増加率 |
|---|---|
| 20% | 50%増必要 |
| 30% | 約33%増必要 |
| 40% | 25%増必要 |
| 50% | 20%増必要 |
→ 利益率が高い商品ほど、少ない伸び率で効果が出やすい。
→ 逆に、原価率が高い(=利益率が低い)商品では、より多くの販売増が必要になります。
■6. 「利益率」より「利益額」で考える
経営や販売を考えるときに、
つい「利益率」に目が行きがちですが、
実際に重要なのは**利益額(=実際に残るお金)**です。
たとえば:
| 状況 | 売上 | 利益率 | 利益額 |
|---|---|---|---|
| 通常販売 | 10万円 | 40% | 4万円 |
| セール | 13.5万円 | 33% | 4.5万円 |
→ 利益率は下がっても、利益額は増加しています。
■7. 「値引きのしすぎ」に注意
もちろん、すべての値下げが成功するわけではありません。
次のような場合は注意が必要です。
- 値下げしても販売数があまり伸びない
- 原価率が高く、利益率の余裕が少ない
- 期間を長く設定しすぎて「通常価格が高い」と見られる
こうした場合は、売上は増えても利益が減少してしまいます。
■8. 成功するセールの条件
利益を増やすセールにするためには、次の3点がポイントです。
① 来店・購買を「促す理由」が明確である
単なる「安売り」ではなく、
「限定期間」「数量限定」「新商品お試し」など、
お客様が“今行く理由”を感じられる工夫が必要です。
② 適切な割引率を設定する
10%引きは、心理的にも「お得」と感じやすい設定です。
ただし、商品の利益率や固定費を考え、
採算が取れる範囲内で設定しましょう。
③ セール後の「リピーター化」を意識する
セールで新規のお客様が増えたら、
その後に通常価格でも購入してもらう仕組みをつくることが大切です。
■9. 実例で見る:セールで利益を増やしたケース
〈A店:家電販売店のケース〉
夏場にエアコンの10%引きキャンペーンを実施。
通常月の成約件数が10件 → キャンペーン月は15件に増加。
| 状況 | 単価 | 原価率 | 粗利 | 成約件数 | 粗利合計 |
|---|---|---|---|---|---|
| 通常月 | 20万円 | 70% | 6万円 | 10件 | 60万円 |
| キャンペーン月 | 18万円 | 70% | 5.4万円 | 15件 | 81万円 |
➡ 値引きしても成約増で粗利+21万円。
セール効果で職人稼働率も安定し、結果的に固定費削減にもつながった。
■10. まとめ:値引きの本質は「お客様を動かすこと」
「10%引き」という数字自体に魔法はありません。
大切なのは、その割引がお客様にとって価値のあるきっかけになっているかどうかです。
- “今買う理由”を生み出す
- “お得な体験”で満足度を高める
- “また来たい”と思ってもらう
これらが揃えば、
セールは単なる値引きではなく、利益を増やす仕組みになります。
■11. 最後に:数字を味方につける
販売や経営の判断は、「感覚」よりも「数字」で見ると正確です。
値下げの影響を予測するには、次の3つをチェックしましょう。
- 値引き率(何%下げるのか)
- 販売数量の伸び率(どれだけ増える見込みか)
- 原価率・固定費の割合
この3つのバランスを試算すれば、
「利益が増えるセール」かどうかが事前に見えてきます。
【まとめ図】
値下げ(単価↓)
↓
来店数・販売数↑
↓
売上↑
↓
固定費効率↑
↓
最終利益↑
そして判断基準として:
利益率30%の商品を10%値引きした場合、
販売数約33%以上アップでセール成功!
💡結論
10%引きのセールは、
「お客様が増える」ことで「利益も増える」可能性を持っています。値引きの目的を“損をしない販促”から
“利益を増やす戦略”へと変えて考えること。それが、数字に強い経営・販売の第一歩です。
【本日の一曲】
Slick Rick – Children’s Story