2025 11 11

ステーブルコインって何?──3メガバンクの共同発行がもたらす未来

025年、日本の金融シーンに大きな変化が起ころうとしています。
三菱UFJ銀行・三井住友銀行・みずほ銀行の3メガバンクが共同で円建てステーブルコインを発行し、その実証実験を金融庁が正式に支援対象に採択しました。
「ステーブルコイン」とは一体何なのか? そして、それが社会や経済にどんな影響を与えるのか?
日本の金融インフラを大きく変えるかもしれない「ステーブルコイン」の世界を解説。


ステーブルコインとは?──安定した価値を持つデジタル通貨

「ステーブルコイン(Stablecoin)」とは、その名の通り“安定した(Stable)コイン(Coin)”という意味のデジタル資産です。
ビットコインなどの暗号資産(仮想通貨)は価格変動が激しいため、投資対象としては人気がある一方で、日常の決済や企業間送金には不向きでした。

そこで登場したのがステーブルコインです。
円やドル、国債、金などの「現実の資産」と連動することで、価格をほぼ一定に保つ仕組みになっています。

たとえば、1JPYC = 1円 のように価値が固定されていれば、暗号資産のような値動きのリスクを気にせず、決済や送金に使えるようになります。


日本での動き──3メガバンクの共同実験を金融庁が後押し

2025年11月、金融庁は3メガバンクのステーブルコイン実証実験を「フィンテック実証実験ハブ」の支援対象に採択しました。
これは、国家レベルでステーブルコインの実用化を後押しするという強い姿勢の表れです。

実験の概要

  • 発行主体:三菱UFJ信託銀行(3メガからの預かり資金をもとに発行)
  • 技術基盤:フィンテック企業「プログマ(Progmat)」のブロックチェーン技術を利用
  • 初期利用者:三菱商事(国内外の拠点間送金に利用)
  • 利用想定:企業間決済・越境送金など高額取引中心

この「信託型」と呼ばれる仕組みにより、送金上限の制約を設けずに、信託銀行が安全に裏付け資産を保有したうえで発行します。
これにより、銀行レベルの信頼性を担保しつつ、ブロックチェーンのスピードと透明性を両立できるのです。


これまでの銀行送金の課題──数日かかる国際決済

これまでの銀行振り込みでは、特に海外への送金に数日かかるのが当たり前でした。
中継銀行を経由し、為替レートの調整や手数料が複数発生するなど、企業にとっては時間もコストも大きな負担です。

ステーブルコインを使えば、ブロックチェーン上で即時決済が可能。
しかも、24時間365日、国境を越えて数秒で送金できるようになります。

たとえば、三菱商事のようなグローバル企業では、国内外240以上の拠点間での送金や清算業務があります。
これがステーブルコインで完結すれば、年間で数億円単位のコスト削減につながる可能性もあります。


日本初の円建てステーブルコイン「JPYC」の登場

金融庁の支援が動き出す少し前、2025年10月には**日本初の円建てステーブルコイン「JPYC」**が正式に発行されました。
「1JPYC = 1円」で価値が固定されており、改正資金決済法(2023年施行)に基づいて「電子決済手段」として法的に認められています。

JPYCは単なる暗号資産ではなく、電子マネーと同じように円と等価で使えることが特徴です。
ただし、ブロックチェーン上で管理されるため、中央集権的な銀行システムとは異なり、ユーザー自身が資産を直接保有・送金できるという自由度があります。


なぜ円と連動するだけのコインが注目されるのか?

「価値が円と同じなら、電子マネーでいいのでは?」という疑問はもっともです。
しかし、JPYCや3メガのステーブルコインには、従来の電子マネーにはない利点があります。

① 銀行を介さず送金できる

ブロックチェーンを活用することで、個人間・企業間の直接送金が可能になります。
銀行口座を持たない人でも、ウォレットがあれば世界中で使えます。

② 24時間リアルタイム決済

土日祝日や夜間でも関係なく、即時に送金・決済が完了。
従来の「翌営業日扱い」といった制約がなくなります。

③ 手数料の大幅削減

国際送金や少額決済で発生していた高額な手数料を、大幅に削減できます。
特に海外クリエイターやフリーランサーへの支払いなど、**マイクロペイメント(少額取引)**が現実的になります。

④ スマートコントラクトとの連携

ステーブルコインはプログラムによって自動で送金や支払いを実行できる「スマートコントラクト」と組み合わせることで、
「納品確認後に自動支払い」「契約期間満了で支払い停止」など、新しいビジネスモデルが可能になります。


世界のステーブルコイン市場と日本の位置づけ

世界ではすでに「USDT(テザー)」や「USDC(USDコイン)」といったドル建てステーブルコインが主流で、流通総額は約40兆円規模に達しています。
米国では2025年に「ジーニアス法」が成立し、ステーブルコインの法的枠組みが明確化されました。

一方、日本では2023年の改正資金決済法によって初めて法的に定義され、2025年から本格的な普及段階に入ろうとしています。
3メガバンクの取り組みは、日本が世界のデジタル決済競争に参入する大きな第一歩といえるでしょう。


ステーブルコインがもたらす社会的インパクト

日本でのステーブルコイン普及は、単なる金融の進化にとどまりません。
中長期的には、企業の資金決済構造そのものが変わる可能性を秘めています。

● 企業間取引の効率化

BtoB取引の支払いがリアルタイムで完結することで、キャッシュフロー管理の精度が向上。
請求・入金・確認の手間が減り、経理業務の自動化が進むと期待されます。

● 行政・公共支払いへの応用

将来的には、自治体の給付金や補助金の配布をステーブルコインで行うことで、
スピーディーかつ透明な資金移動が可能になるでしょう。

● 中小企業・個人への恩恵

銀行口座を持たない層や、海外との取引が多い中小企業にとっても、
低コストで使える送金インフラとしての価値は大きいです。


実用化への課題──信頼性とルール整備

もちろん、課題もあります。
とくに重要なのがマネーロンダリング対策(AML)と利用者保護のルールづくり
暗号資産を悪用した不正送金を防ぐための監視体制や、トラブル時の救済手段を明確にすることが求められています。

金融庁は今回の支援対象化にあたり、これらの法令面・運用面を実証段階で精査する予定です。
片山さつき金融相も「法令解釈などの面からサポートしていく」と発言しており、実用化に向けた環境整備が進む見込みです。


おわりに──ステーブルコインが描く“次の金融”

「お金」はこれまで、銀行や国家を中心に管理されてきました。
しかしブロックチェーン技術の進化により、より分散的で自由な金融の形が現実のものとなりつつあります。

3メガバンクの共同発行やJPYCの登場は、日本が世界の金融デジタル化に本格的に参入するサインです。
安定した価値を持ちながら、瞬時に動く“新しい円”──
それが、これからのステーブルコインの姿です。

これからの数年、日本円のデジタル化は「電子マネー」から「ブロックチェーン通貨」へと進化していくでしょう。
その最前線にあるステーブルコインが、私たちの生活やビジネスをどう変えていくのか。
今後の動きから目が離せません。


※この記事は金融庁・日経新聞・ダイヤモンド社などの公開情報をもとに構成しました。

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