地方銀行の不動産仲介業 参入について
― 宅建業界が反発する理由と、今後のゆくえ ―
最近、不動産・金融の両業界でじわじわと話題になっているのが、地方銀行による「不動産仲介業」参入問題です。
宅地建物取引業協会(宅建協会)が強く反発していることからも分かる通り、この話題は単なる“新規事業”の議論ではありません。
「地域金融の未来」
「既存の不動産流通のあり方」
「市場の公正性」
…こうした大きな価値観がぶつかり合うテーマでもあります。
なぜ今、地方銀行が不動産仲介に踏み込みたがるのか?
不動産業界はなぜ反発するのか?
今後どうなっていくのか?
という点を、現場感を交えて整理したいと思います。
■ 地方銀行の収益悪化が“参入熱”を高める
まず大前提として、地方銀行の環境は年々厳しくなっています。
- 超低金利の長期化
- 地域経済の縮小
- 人口減少
- 若年層の都市流出
この結果、地方銀行は“本業の貸出”だけでは利益が出しにくい状況になりました。
「融資で食べていく」
というこれまでの王道が通用しない。
そのため、銀行は 手数料ビジネス に軸足を移し始めています。
特に、
- M&A
- 事業承継
- 相続
- 資産整理
といった企業オーナーの相談には、ほぼ確実に“不動産”が絡みます。
実際、銀行に寄せられる相談の中には、
「不動産まで含めて相談したい」
という声が確実に増えており、銀行としては「不動産も一気通貫で扱えた方が便利」と考えるのは自然です。
■ 地方銀行が求める「限定的な仲介業務」
地方銀行協会(地銀協)が要望しているのは、
“すべての不動産仲介を認めろ”
ではなく、次の4分野に限定したものです。
- 事業承継・相続
- 事業再生
- 担保物件の売却
- 再開発・コンパクトシティ関連
つまり、「銀行の本業に密接に関連する分野だけ認めてほしい」というスタンスなのです。
銀行法の「他業禁止原則」に抵触しないよう、一定の制限をかけたうえでの参入要望といえます。
■ 不動産業界が“猛反発”する理由
しかし、これに対して最も反対しているのが 不動産業界(全宅連) です。
反対の理由は主に以下の3つ。
① 公的保護を受ける銀行の参入は“公平性を欠く”
銀行は「預金保険」という後ろ盾があり、倒産リスクが小さい。
そんな組織が民間の仲介市場に参入すれば、競争が歪むのは明らかだという主張です。
② 利益相反・抱き合わせ販売の懸念
銀行が仲介した不動産に、自社グループのローンを抱き合わせるケースは容易に想像できます。
→ 結果として、消費者の選択肢が狭まり、不利益につながるとも言われています。
③ 地域の中小業者が淘汰されるリスク
地方の仲介会社は規模が小さいため、銀行が参入すれば競争に勝てず、
「地域の事業者が消える」
という懸念があります。
地元業者が消えると、最終的には 地域の不動産流通に逆効果 になるという見方です。
■ 行政(金融庁)は“慎重姿勢”を崩していない
金融庁はこれまで一貫して、
「慎重に検討する必要がある」
という立場を続けています。
とくに、
- 他業禁止原則との整合性
- モラルハザードの発生防止
- 経営の健全性の維持
といった観点から、
全面的な解禁は難しい
という立場を堅持しています。
ただし一方で、
「地方創生やデジタル化に資する業務」の範囲拡大が進んでいるのも事実です。
銀行の役割は確実に変化しているため、
“部分的な解禁”は将来的に起こり得る可能性も。
■ では、今後どうなるのか?
結論を急ぐ前に、次の2点が重要です。
① 金利上昇で銀行に体力が戻りつつある
最近の金利上昇で地方銀行は以前より“儲かる体質”に戻ってきています。
そのため、
銀行自身が“不動産参入の必要性”をどこまで強く求め続けるか?
が不透明になりつつあります。
② 解禁されても「体制整備」が必須
銀行の過去の不祥事を見ても、
“銀行が常に顧客本位というわけではない”
ことは誰しも知っています。
不動産仲介を認めるなら、
- 利益相反の防止ルール
- 倫理規定
- 監視体制
- 金融庁の厳しいチェック
といった“強力な枠組み”が不可欠です。
こうした仕組みづくりには、まだ相当な時間がかかるでしょう。
■ 結局、どうなる?
- 地域課題へのニーズ増大
- 業界団体の意見
- 金融庁の慎重姿勢
- 監視体制の構築
を踏まえ、
数年〜10年単位の長期的議論になるでしょう。
この議論は、
「銀行が生き残るための戦略」
であると同時に、
「地域不動産の未来をどうするか」
という大きなテーマでもあります。
今後も注視したい話題です。
【本日の一曲】
川田十夢 – 水脈