2025 12 25

JR土讃線という、四国の背骨を走る路線の話

    ◾️日本最古級の現役駅舎 善通寺駅

昨日はJR予讃線・高瀬駅の新駅舎について書きましたが、今日はその流れでJR土讃線の話を少し。
とはいえ、いわゆる鉄道マニアではありませんので、細かい車両形式やダイヤの話はほぼ出てきません。あくまで「地域の足」「風景の中の鉄道」としての視点です。あしからず(笑)。

きっかけは、YouTuberのスーツさんがちょうどアップされてた土讃線乗車動画。
あらためて動画で見ると「これはなかなかすごい路線だな」と。

私の母は徳島県西部の出身で、動画に出てくる吉野川沿いの景色や、その周辺地域には個人的にも馴染みがあります。
ただ、初見の人があの映像を見たら「よくここに鉄道を通したな……」と感じるのではないでしょうか。平野部のイメージが強い讃岐からは、なかなか想像しづらい世界です。


土讃線は「土佐-讃岐線」

まず基本的なところから。
土讃線は、その名の通り土佐(高知)と讃岐(香川)を結ぶ路線です。
同じように、予讃線は「伊予(愛媛)-讃岐線」。四国の鉄道は旧国名がそのまま路線名に生きているのが面白いところです。

土讃線の起点は香川県の多度津駅
そこから善通寺、琴平、阿波池田、大歩危・小歩危、高知を経て、最終的には窪川駅まで至る、全長約200kmの幹線です。(全国的に有名な秘境の駅もあります)

地図で見ると一本の線に見えますが、実際に走っている場所はまさに変化の連続。
讃岐平野の穏やかな風景から始まり、讃岐山脈を越え、吉野川の渓谷沿いを縫うように進み、やがて土佐湾に近い高知平野へ。
四国という島の「背骨」をそのままなぞるような路線だと言ってもいいと思います。


善通寺駅という「日本最古級の現役駅舎」

動画を見ていて、個人的に一番驚いたのが善通寺駅でした。
「善通寺駅の駅舎って、日本最古クラスなんだ」と、正直この歳になるまで知りませんでした。

善通寺駅は1889年(明治22年)開業。
しかも現在使われている駅舎は、その開業当時の木造駅舎をベースに、1922年(大正11年)の陸軍特別大演習の際に増築されたものです。

建物財産標には「明治22年3月30日」の文字。
日本最古の現役駅舎として知られる亀崎駅よりも、さらに古い可能性があるとも言われています。
国の登録有形文化財に指定されているのも納得です。

善通寺といえば弘法大師空海の誕生地。
駅の案内表示に「弘法大師ゆかりの駅」と書かれているのも、この土地ならではです。
日常的に使われる駅舎が、そのまま近代日本の鉄道史を体現しているというのは、なかなか贅沢な話だと思います。


60年以上かけて全通した山岳路線

土讃線の最大の特徴は、やはり山岳路線であることです。
多度津〜琴平間が開業したのは1889年。しかし全線がつながるまでには、実に60年以上の歳月がかかっています。

四国山地という険しい地形、讃岐山脈の越え、吉野川沿いの急峻な谷。
今でこそトンネルや橋梁は当たり前ですが、当時の土木技術でこれを貫こうとした苦労は、想像するだけでも大変です。

大歩危・小歩危の峡谷を抜ける区間は、今なお土讃線屈指の見どころ。
蛇行する川と線路、断崖に張り付くような線形。
「よくもまあ、ここに鉄道を敷いたものだ」と感心せずにはいられません。


スイッチバックと振子式車両

令和の今でも、土讃線にはスイッチバック駅が2駅残っています。
効率だけを考えれば廃止されていてもおかしくない構造ですが、地形と向き合った結果として今も生き続けています。

また、特急列車には振子式車両が使われ、カーブの多い線路を車体を傾けながら走り抜けます。
これは単なる「鉄道ファン向けの仕掛け」ではなく、四国山地を越えるための実用的な工夫そのもの。

土讃線は、観光路線である以前に、生活路線であり、挑戦の歴史そのものだと感じます。


香川県の鉄道網と土讃線の位置づけ

香川県内のJR路線は、高松駅を中心に放射状に伸びています。

  • 予讃線:高松〜愛媛方面
  • 高徳線:高松〜徳島方面
  • 土讃線:高松〜多度津〜琴平方面
  • 瀬戸大橋線:宇多津〜岡山方面

この中で土讃線は、県境を越え、四国の内陸を縦断する唯一の路線とも言えます。
瀬戸内海沿いの比較的穏やかな予讃線とは対照的に、土讃線は山と川の中を進む「内陸の動脈」です。

瀬戸大橋線開通以前は、本州と四国を結ぶ特急列車が高松を起点に土讃線へ直通していました。
今では岡山起点が主流になりましたが、土讃線が担ってきた役割の大きさは変わりません。


過酷に見えて、実は人の暮らしに寄り添う路線

外から見ると「過酷」「秘境」と言われがちな土讃線。
確かに地形は厳しく、都市部の路線とはまったく違います。

ただ、母の故郷を思い浮かべると、そこには確かに人の生活があり、日常があり、その延長線上に鉄道があるという感覚があります。
派手さはないけれど、長い時間をかけて地域と共に歩いてきた路線。

YouTubeの動画をきっかけに、そんなことを改めて考えさせられました。


駅舎が変わっても、路線が語るものは変わらない

昨日書いた高瀬駅の新駅舎のように、駅は時代とともに姿を変えます。
一方で、善通寺駅のように100年以上同じ姿で立ち続ける駅もある。

新しいものと古いものが混在しながら、路線そのものは今日も変わらず列車を走らせている。
土讃線は、四国という島の地形と歴史、人の営みを、そのまま線路に刻み込んだ存在だと感じます。

鉄道マニアではなくても、そうした背景を知ったうえで車窓を眺めると、見える景色はきっと変わるはず。
次に土讃線に乗る機会があれば、そんなことを思い出しながら、ゆっくり景色を楽しんでみたいと思います。

【本日の一曲】
ずっと真夜中でいいのに。 – TAIDADA (From 永遠深夜万博「名巧は愚なるが如し」)