2025 12 09

大迫傑、34歳でたどり着いた“新たな1秒”

──更新というより、“進み続ける生き方”そのもの

12月7日、スペイン・バレンシア。
日本の長距離界にまた一つ、大きな歴史が刻まれました。日本新記録達成です。

大迫傑、34歳。
記録は 2時間4分55秒
日本記録を 1秒 更新。

「たった1秒?」
そう思う人もいるかもしれません。
ですが、この“1秒”がどれほど大きな価値を持つのかは、この競技を知る人ほど胸に響くでしょう。

大迫が日本記録を更新したのは、これで 3度目
2018年、2020年、そして2025年。
世界の舞台で、日本の歴史を3度も塗り替えたランナーは他にいません。

今回の更新は、単なる数字の上の1秒ではなく、
「34歳で、ふたたび自分自身を超えた」
という事実こそが大きな意味を持っています。

   ※シューズのアシックス率高いですね


■ 道具の進化だけでは届かない領域

2018年のナイキのシューズ革命以降、「厚底だから速くなった」という声も確かにありました。
私自身、当時はそう感じていた部分があります。

しかし、大迫は最新のツールに“乗っかった”だけではありません。

・身体の使い方
・トレーニングの組み立て
・メンタルマネジメント
・レース戦術

こうした「選手としての総合力」を、年齢を重ねながらさらに磨き続けてきたからこそ、1秒が削れる。

道具だけでは辿り着けない世界。
そこを走り切ったからこその1秒です。


■ 「34歳」という数字の意味

マラソンはフィジカルの影響が非常に大きい競技。
20代のように「走り込みさえすれば伸びる」という時期は過ぎています。
市民ランナーではないですから、メンタルでどうこうできる領域ではありません。

・疲労の抜けにくさ
・怪我のリスク
・練習量の限界
・回復スピードの低下

普通なら、練習の質を維持するだけでも難しい年齢です。

その中で、
自己ベストを30秒以上更新し、日本記録を1秒縮めた
これは日本のマラソン史でも類を見ない成果です。

東京レガシーハーフでも日本人トップ。
調子の良さは見えていましたが、まさかここまで仕上げてくるとは…正直驚きです。


■ レース運びの巧さ──「崩れない強さ」が際立った

前半は第2集団で冷静にスタート。
通過は1時間2分41秒と速めですが、力の範囲内。

勝負は最後の10km。
ここから粘り切れるランナーはほんの一握りです。

・焦らない
・フォームが崩れない
・無理に追わない
・でもペースは落とさない

“限界の中で正しい判断を積み重ねる力”
こそが、大迫の最大の武器だと感じたレースでした。

   ※脅威の全体通してAvg:2:58/km 


■ レース後の言葉がすべてを物語る

Instagramで大迫はこう語っています。

「たった1秒だけど、僕らにはとんでもなくデカイ1秒だった。」

喜びよりも、積み上げた努力と葛藤が滲む一言。
その裏には、

・迷い
・不安
・故障
・試行錯誤
・努力の削ぎ落とし

あらゆるプロセスが積み重なっていることが伝わってきます。


■ さらに「生き方」が表れた2つの変化

大迫傑は記録だけでなく、その“姿勢”も大きく変わっています。

① 新たな挑戦──ナイキ専属契約からリーニンへ

アジア人初のナイキ専属契約を終え、
今年からは中国のスポーツブランド リーニン(Li-Ning) と契約。

ブランドの枠を超え、
「自分が信じる道を選んで進む」
そんな大迫らしい変化です。

② 日本のトップアスリートとしては珍しいタトゥー

今年、身体にタトゥーを入れたことも話題になりました。
日本のトップランナーでは珍しい選択ですが、
これも“新しいスタイル”“新しい価値観”をまっすぐに生きる大迫らしさだと感じます。

「記録だけでなく、生き方そのものをアップデートし続ける姿」。
それが、今日の大迫傑の魅力と言えるでしょう。


■ 日本男子マラソン日本記録の推移 

  2025年12月9日時点

ランナー記録大会・開催地
1963年寺沢徹2:15:15別府大分毎日
1965年重松森雄2:12:00ロンドン
1967年佐々木精一郎2:11:17福岡国際
1970年宇佐美彰朗2:10:37福岡国際
1978年宗 茂2:09:05別府大分
1983年瀬古利彦2:08:38東京国際
1985年中山竹通2:08:15広島
1986年児玉泰介2:07:35北京
1999年犬伏孝行2:06:57ベルリン
2000年藤田敦史2:06:51福岡国際
2002年高岡寿成2:06:16シカゴ
2018年設楽悠太2:06:11東京
2018年大迫傑2:05:50シカゴ
2020年大迫傑2:05:29東京
2021年鈴木健吾2:04:56びわ湖毎日
2025年大迫傑2:04:55バレンシア

■ MGC出場権獲得、そしてロサンゼルス五輪へ

今回の記録により、2027年のMGC出場権を獲得。
パリ五輪以来のフルマラソンでこの走り。
ここからロサンゼルス五輪へ向けた物語が始まっていきます。

34歳。
まだ進化できることを、誰よりも自分自身が証明しました。


■ “1秒”とは、積み重ねた時間そのもの

この1秒には、

・膨大な走り込み
・トレーニング理論の進化
・栄養管理
・怪我との向き合い
・精神面のアップデート
・スタッフとの信頼
・そして諦めなかった時間

そのすべてが詰まっています。

だからこそ
「たった1秒」ではなく「大きすぎる1秒」
なのです。


■ 終わりに

記録だけでなく、選択や生き方、スタイルまで含めて、
「進化し続ける34歳」を見せてくれた大迫傑。

これから先の挑戦が、とても楽しみですね。


【本日の一曲】
Nas – Is Like