2025 12 15

「自筆証書遺言書保管制度」とは?

― 家族に想いを確実に残すために知っておきたい新しい選択肢 ―

2020年7月10日から、新しく始まった制度に**「自筆証書遺言書保管制度」**があります。
名前は聞いたことがあっても、「実際にどんな制度なのか」「公正証書遺言と何が違うのか」「本当に使う価値があるのか」といった点は、意外と知られていません。

先日、お客様のお宅に伺った際、遺言書についてのご質問を受けました。
年末年始に息子さんご家族のもとへ旅行に行かれるとのこと。来春にはお孫さんが就職される予定で、ご自身の年齢のことも考え、「今が良い区切りだと思っている」とお話しされていました。

その旅行の中で、自分たちが住んでいる家や土地を将来どうしたいか、家族にどう伝えるべきかを話す良い機会にしたい、というお考えでした。

不動産は、相続の中でも特にトラブルになりやすい財産です。
だからこそ、「元気なうちに意思を形にしておく」ことの重要性を、改めて感じさせられる出来事でした。


遺言書には3つの種類がある

まず基本として、遺言書には法律上、次の3種類があります。

  1. 自筆証書遺言
  2. 公正証書遺言
  3. 秘密証書遺言

このうち、実際によく使われているのは「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」です。
秘密証書遺言は制度として存在はしていますが、実務上利用されることはほとんどありません。


自筆証書遺言と公正証書遺言の違い

自筆証書遺言とは

自筆証書遺言は、遺言者本人が全文を自書し、日付と氏名を記載し、押印することで作成します。
なお、2019年の法改正により、”財産目録については”自筆でなくてもよくなり、パソコン作成や通帳コピーの添付が可能になりました。

  • 作成者:遺言者本人
  • 費用:原則無料(法務局保管の場合は有料)
  • 保管方法
    • 自宅保管(紛失・改ざんのリスクあり)
    • 法務局での保管(自筆証書遺言書保管制度)
  • 検認
    • 自宅保管 → 必要
    • 法務局保管 → 不要
  • 特徴
    手軽で自由度が高い反面、形式不備で無効になるリスクがある

公正証書遺言とは

公正証書遺言は、公証役場で公証人が遺言者の意思を聞き取り、法的に整った形で作成します。
証人2名の立ち会いも必要となり、内容・形式ともに厳格です。

  • 作成者:公証人(遺言者の意思に基づく)
  • 費用:数万円〜(財産額により異なる)
  • 保管:公証役場で原本保管
  • 検認:不要
  • 特徴
    有効性・安全性が最も高く、無効になる可能性がほぼない

公正証書遺言は「確実性」を重視する方には最適ですが、費用や手続きの負担を考えると、ハードルが高いと感じる方も少なくありません。


自筆証書遺言の「弱点」を補う制度

自筆証書遺言は非常に便利な反面、これまで大きな問題点が指摘されてきました。

  • 死後に見つからない
  • 一部の相続人による改ざん・隠匿
  • 家庭裁判所での検認手続きの負担

こうした課題を解決するために創設されたのが、
自筆証書遺言書保管制度です。


自筆証書遺言書保管制度とは?

この制度では、自筆証書遺言を法務局(遺言書保管所)で預かり、長期間にわたって適正に管理します。

制度のポイントは以下の通りです。

① 原本とデータを長期保管

  • 原本:遺言者死亡後 50年間
  • 画像データ:遺言者死亡後 150年間

② 外形的な方式チェック

法務局職員(遺言書保管官)が、

  • 全文が自書されているか
  • 日付・氏名・押印があるか
    といった形式面のみを確認します。

※内容の妥当性や有効性の判断は行いません。

③ 相続人への確実な伝達

相続開始後、相続人は

  • 遺言書情報証明書の交付
  • 遺言書の閲覧
    が可能です。

④ 家庭裁判所の検認が不要

法務局保管の遺言書は、検認手続きが不要となり、相続手続きがスムーズになります。

⑤ 相続人全員への通知

一部の相続人が閲覧や証明書交付を受けた場合、他の相続人全員に通知されます。


保管申請の流れ

  1. 自筆証書遺言を作成する
  2. 保管する法務局を決める
    (住所地・本籍地・不動産所在地のいずれか)
  3. 申請書を作成する
  4. 事前予約をする(遺言者本人ごと)
  5. 法務局で申請
  6. 保管証を受け取る

必要書類

  • 遺言書(ホチキス止め不要、封筒不要)
  • 保管申請書
  • 住民票の写し(本籍記載、3か月以内)
  • 顔写真付き身分証明書
  • 手数料:1通 3,900円(収入印紙)

注意点:内容チェックはされない

ここで非常に重要なポイントがあります。

公正証書遺言は、作成時に内容のチェックが行われるため、無効になることはありません。
一方で、自筆証書遺言は、法務局保管であっても内容の有効性は保証されません。

  • 自書要件を満たしていない
  • 表現が曖昧
  • 法律上無効な内容

こうした問題があれば、保管されていても遺言自体が無効になる可能性があります。

ワードやエクセルで全文を作成した遺言書は無効です。(財産目録は可)
「保管=安心」ではない点は、必ず理解しておく必要があります。


まとめ:制度を知り、選択することが大切

自筆証書遺言書保管制度は、

  • 費用を抑えたい
  • 自分で遺言を書きたい
  • 紛失や改ざんを防ぎたい

という方にとって、非常に有効な制度です。

一方で、

  • 内容の正確性
  • 法的な有効性
  • 相続関係の複雑さ

によっては、公正証書遺言を選ぶ方が適している場合もあります。

大切なのは、
「遺言を書くこと」そのものよりも、「自分の意思を確実に家族へ残すこと」

家や土地といった不動産は、相続の場面で感情が絡みやすい財産です。
だからこそ、元気なうちに制度を知り、家族と話し合い、自分に合った方法を選ぶことが、何よりの“相続対策”になるのだと思います。

◻︎◻︎出典:自筆証書遺言書保管制度のご案内
     https://houmukyoku.moj.go.jp/mito/page000001_00041.pdf


【本日の一曲】
Yasuaki Shimizu – Kakashi