「自筆証書遺言書保管制度」とは?
― 家族に想いを確実に残すために知っておきたい新しい選択肢 ―
2020年7月10日から、新しく始まった制度に**「自筆証書遺言書保管制度」**があります。
名前は聞いたことがあっても、「実際にどんな制度なのか」「公正証書遺言と何が違うのか」「本当に使う価値があるのか」といった点は、意外と知られていません。
先日、お客様のお宅に伺った際、遺言書についてのご質問を受けました。
年末年始に息子さんご家族のもとへ旅行に行かれるとのこと。来春にはお孫さんが就職される予定で、ご自身の年齢のことも考え、「今が良い区切りだと思っている」とお話しされていました。
その旅行の中で、自分たちが住んでいる家や土地を将来どうしたいか、家族にどう伝えるべきかを話す良い機会にしたい、というお考えでした。
不動産は、相続の中でも特にトラブルになりやすい財産です。
だからこそ、「元気なうちに意思を形にしておく」ことの重要性を、改めて感じさせられる出来事でした。
遺言書には3つの種類がある
まず基本として、遺言書には法律上、次の3種類があります。
- 自筆証書遺言
- 公正証書遺言
- 秘密証書遺言
このうち、実際によく使われているのは「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」です。
秘密証書遺言は制度として存在はしていますが、実務上利用されることはほとんどありません。
自筆証書遺言と公正証書遺言の違い
自筆証書遺言とは
自筆証書遺言は、遺言者本人が全文を自書し、日付と氏名を記載し、押印することで作成します。
なお、2019年の法改正により、”財産目録については”自筆でなくてもよくなり、パソコン作成や通帳コピーの添付が可能になりました。
- 作成者:遺言者本人
- 費用:原則無料(法務局保管の場合は有料)
- 保管方法:
- 自宅保管(紛失・改ざんのリスクあり)
- 法務局での保管(自筆証書遺言書保管制度)
- 検認:
- 自宅保管 → 必要
- 法務局保管 → 不要
- 特徴:
手軽で自由度が高い反面、形式不備で無効になるリスクがある
公正証書遺言とは
公正証書遺言は、公証役場で公証人が遺言者の意思を聞き取り、法的に整った形で作成します。
証人2名の立ち会いも必要となり、内容・形式ともに厳格です。
- 作成者:公証人(遺言者の意思に基づく)
- 費用:数万円〜(財産額により異なる)
- 保管:公証役場で原本保管
- 検認:不要
- 特徴:
有効性・安全性が最も高く、無効になる可能性がほぼない
公正証書遺言は「確実性」を重視する方には最適ですが、費用や手続きの負担を考えると、ハードルが高いと感じる方も少なくありません。
自筆証書遺言の「弱点」を補う制度
自筆証書遺言は非常に便利な反面、これまで大きな問題点が指摘されてきました。
- 死後に見つからない
- 一部の相続人による改ざん・隠匿
- 家庭裁判所での検認手続きの負担
こうした課題を解決するために創設されたのが、
自筆証書遺言書保管制度です。
自筆証書遺言書保管制度とは?
この制度では、自筆証書遺言を法務局(遺言書保管所)で預かり、長期間にわたって適正に管理します。
制度のポイントは以下の通りです。
① 原本とデータを長期保管
- 原本:遺言者死亡後 50年間
- 画像データ:遺言者死亡後 150年間
② 外形的な方式チェック
法務局職員(遺言書保管官)が、
- 全文が自書されているか
- 日付・氏名・押印があるか
といった形式面のみを確認します。
※内容の妥当性や有効性の判断は行いません。
③ 相続人への確実な伝達
相続開始後、相続人は
- 遺言書情報証明書の交付
- 遺言書の閲覧
が可能です。
④ 家庭裁判所の検認が不要
法務局保管の遺言書は、検認手続きが不要となり、相続手続きがスムーズになります。
⑤ 相続人全員への通知
一部の相続人が閲覧や証明書交付を受けた場合、他の相続人全員に通知されます。
保管申請の流れ
- 自筆証書遺言を作成する
- 保管する法務局を決める
(住所地・本籍地・不動産所在地のいずれか) - 申請書を作成する
- 事前予約をする(遺言者本人ごと)
- 法務局で申請
- 保管証を受け取る
必要書類
- 遺言書(ホチキス止め不要、封筒不要)
- 保管申請書
- 住民票の写し(本籍記載、3か月以内)
- 顔写真付き身分証明書
- 手数料:1通 3,900円(収入印紙)
注意点:内容チェックはされない
ここで非常に重要なポイントがあります。
公正証書遺言は、作成時に内容のチェックが行われるため、無効になることはありません。
一方で、自筆証書遺言は、法務局保管であっても内容の有効性は保証されません。
- 自書要件を満たしていない
- 表現が曖昧
- 法律上無効な内容
こうした問題があれば、保管されていても遺言自体が無効になる可能性があります。
ワードやエクセルで全文を作成した遺言書は無効です。(財産目録は可)
「保管=安心」ではない点は、必ず理解しておく必要があります。
まとめ:制度を知り、選択することが大切
自筆証書遺言書保管制度は、
- 費用を抑えたい
- 自分で遺言を書きたい
- 紛失や改ざんを防ぎたい
という方にとって、非常に有効な制度です。
一方で、
- 内容の正確性
- 法的な有効性
- 相続関係の複雑さ
によっては、公正証書遺言を選ぶ方が適している場合もあります。
大切なのは、
「遺言を書くこと」そのものよりも、「自分の意思を確実に家族へ残すこと」。
家や土地といった不動産は、相続の場面で感情が絡みやすい財産です。
だからこそ、元気なうちに制度を知り、家族と話し合い、自分に合った方法を選ぶことが、何よりの“相続対策”になるのだと思います。
◻︎◻︎出典:自筆証書遺言書保管制度のご案内
https://houmukyoku.moj.go.jp/mito/page000001_00041.pdf
【本日の一曲】
Yasuaki Shimizu – Kakashi