2026 08 31

戦前の面影を残す琴電屋島駅舎が解体へ 失われる「駅」と「記憶」

香川県内には、長い年月を経ながら現在も使われ続けている建物が数多くあります。

住宅や商業施設とは違い、特に駅舎という建物は、人々の生活や思い出と深く結びついている場所です。

毎日の通勤や通学で利用した駅。旅行へ出掛ける時に訪れた駅。誰かを迎えに行った駅。

建物そのものに価値があることはもちろんですが、そこには何十年もの間、人それぞれの記憶が積み重なっています。

そんな中、長年親しまれてきたことでん志度線の琴電屋島駅舎が、2026年9月から解体されるというニュースが発表されました。


1929年に建てられたモダンな駅舎

現在の琴電屋島駅舎は、1929年(昭和4年)、屋島登山鉄道の開業に合わせて建てられました。

特徴的なのは、当時としては非常にモダンなデザインです。

軒の出を抑えた緩やかな勾配のスレート屋根、そして装飾を控えたシンプルな外壁。

いわゆる昔ながらの木造駅舎とは少し違い、昭和初期の近代的な建築デザインを感じさせる建物です。

屋島観光が大きく発展していた時代の空気を今に伝える建築物として評価され、2009年には経済産業省の「近代化産業遺産」にも認定されました。

単なる駅舎ではなく、香川の観光や交通の歴史を物語る建物だったわけです。


台風被害と老朽化。そして安全を優先した解体

今回の解体の背景には、今年6月の台風による被害と建物の老朽化があります。

安全性について調査や検討を進めた結果、利用者の安全を最優先に考え、解体という判断に至ったとのことです。

歴史的な建物だからといって、必ずしも保存できるわけではありません。

建物は年月とともに劣化します。

特に公共交通機関の施設であれば、「思い出があるから残そう」だけでは済まない部分もあります。

利用者が毎日出入りする建物ですから、安全性の確保は最も重要です。

その意味では、解体という判断も決して簡単なものではなかったと思います。

工事期間中も駅の利用自体は継続され、ホームへ向かうための仮設通路などが設けられる予定とのことです。


建物がなくなる時、失われるのは建物だけではない

今回の発表を受け、SNSなどでは琴電屋島駅舎を惜しむ声が多く上がっています。

それは、この駅舎が単なる「古い建物」ではないからでしょう。

子どもの頃、ことでんに乗って屋島へ出掛けた思い出。

ケーブルカーに乗って屋島山上へ向かった思い出。

通学や通勤で毎日のように通った記憶。

そして、駅の周辺で過ごした何気ない時間。

建物は言葉を話しませんが、その場所を訪れた人たちの記憶を静かに受け止め続けています。

だからこそ、建物がなくなるというニュースを聞くと、自分自身の思い出まで少し失われてしまうような感覚になるのかもしれません。

昭和モダニズム建築としての価値を惜しむ人がいる一方で、琴電屋島駅に個人的な思い出を持つ地元の人が多いのも、この駅舎の大きな価値だと思います。


香川県には「現役」の歴史的駅舎もある

駅舎の歴史ということで思い出すのが、JR四国・土讃線の善通寺駅です。

善通寺駅は1889年(明治22年)に吉田駅として開業し、その後、善通寺駅となりました。

現在も使われている木造駅舎は開業当初からのものとされ、その後1922年(大正11年)の陸軍大演習の際には、車寄せ部分などが増築されています。

開業当初の屋根は切妻造でしたが、1991年の改修で現在の寄棟造となっています。

そして、この善通寺駅舎は、日本で最も古い現役駅舎の一つ、あるいは最古の可能性もあるといわれています。

明治22年3月30日と記された建物財産標も存在し、国の登録有形文化財にも登録されています。

全国を見ても、明治20年代の建物財産票を持つ現存駅舎はごくわずかです。

そんな建物が、香川県で今も現役として使われ続けているというのは、本当にすごいことだと思います。


残すことと、安全に使い続けること

古い建物について考える時、「残すべきか、壊すべきか」という二択になりがちです。

しかし実際には、建物を保存するためにも多くの費用や技術が必要になります。

そして公共施設の場合は、利用者の安全や利便性も考えなければなりません。

琴電屋島駅舎についても、「歴史的だから残すべきだった」と簡単に言うことはできません。

ただ、解体される前に、その建物の価値や歴史を改めて知ることには意味があると思います。

普段何気なく利用している駅。

そこには、建てられた時代の建築やデザイン、地域の発展、そして多くの人たちの人生があります。

9月から始まる解体工事によって、長年親しまれてきた琴電屋島駅舎は姿を消すことになります。

建物そのものはなくなっても、そこで過ごした人たちの記憶までなくなるわけではありません。

だからこそ、なくなる前にもう一度訪れて、その姿を目に焼き付けておく人が増えているのかもしれません。

古い建物がなくなるニュースは寂しいものです。

しかし、それをきっかけに地域に残る建築や駅舎、そして普段は気にも留めない身近な風景について考えてみるのも、悪くないのではないでしょうか。

琴電屋島駅舎の姿が消えた後も、その場所にあった歴史と記憶は、きっと多くの人の中に残り続けるはずです。


◻︎◻︎高松経済新聞 琴電屋島駅舎が9月解体へ 戦前の面影残す近代化産業遺産
  https://takamatsu.keizai.biz/headline/1590/

  善通寺市 善通寺駅の魅力
  https://www.city.zentsuji.kagawa.jp/site/kouhouzentuuji/202010zentsujistation.html


【本日の一曲】
Bobbi Humphrey – New York Times

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