2025 11 04

移動距離が長い人ほど、幸せらしい

「人は動くほど幸せになる」——
少し不思議な話ですが、実際にそうした研究結果があるそうです。

私自身、日々を振り返ってみても納得できる部分があります。
仕事では事務所にいる時間よりも、お客様のもとへ出向いたり、不動産物件を見に行ったり、工事現場を確認したり、資料を調べに官公庁や金融機関へ行ったりと、かなり動き回っています。
プライベートでも、ランニングをしており、マラソン大会にやその他の用事で県外に出向くこともこともしばしば。気づけば「けっこう移動してるな」と思う方です。
(とはいえ、家の中でのんびり過ごすのも大好きなんですが。笑)


「移動距離」と「幸福度」の関係

この「移動と幸福度」の関係を明らかにしたのは、米・マイアミ大学のアーロン・ヘラー准教授の研究チームです。
ニューヨークとマイアミに住む132人を対象に、3〜4か月間にわたってGPSで行動を追跡。日々の心理状態をアンケートで記録し、一部の参加者の脳をMRIで分析したそうです。

結果は明快でした。
「日々の身体的な位置の変動が、人間のポジティブな感情の増加と関連している」
つまり、よく動く人ほど、幸福を感じやすいということです。

特に「新しい場所」に行くほど幸福度が高まる傾向も確認されました。
新しい環境を探索するとき、脳の中では“意欲”や“記憶”をつかさどる領域が活発に結びつくそうです。
言い換えれば、「知らない場所へ行く」という行為そのものが、脳をポジティブに働かせるのです。


どうして“移動”が人を幸せにするのか

なぜ移動すると幸福を感じるのか?
その理由の一つは、「世界が広がるから」だと思います。

私たちは、同じ場所に長くいると、どうしても視野が狭くなりがちです。
同じ景色、同じ人、同じ会話の中にいると、「この範囲でしか生きられない」と思い込んでしまう。
けれど、移動すると、その“枠”が一瞬で広がります。

見知らぬ街での風景、違う方言、人の流れ、食べ物の匂い……。
そうした新しい刺激が、脳にとっては“リセットボタン”のような働きをするのです。

マイアミ大学のヘラー准教授は、「人間には環境を探求したいという本能がある」と言っています。
動物が新しい食べ物を探しに出るように、私たちも「もっといいものがあるかもしれない」と外へ出ていく。
そして、それこそが進化の過程で人類を発展させてきた原動力だというのです。
いわば、「移動したい」「探索したい」という気持ちは、人間のDNAに刻まれた幸せのスイッチなのかもしれません。


日本でも見えた「移動と幸福度」の関係

国内でも同様の傾向が見えています。
博報堂生活総合研究所が、携帯電話の位置情報データを使って東京都内の1,300人以上を分析したところ、「休日のおでかけ距離が長い人ほど、幸福度が高い」ことが分かりました。

例えば、休日に6〜7kmほど離れた場所まで出かける人は、5km以内しか移動しない人よりも幸福度が高いという結果が出ています。
しかも、距離が重要なのではなく、「訪問したエリアの数」の方が幸福度との関係が強いそうです。

つまり、遠くへ行かなくてもいい。
近くでも、普段行かない場所にたくさん行く人ほど、幸福を感じやすいということ。
これはちょっと意外で、でも納得のいく話です。


「行きつけ」より「新しい訪問先」を

同研究では、「行きつけエリア数」(定期的に訪れる場所の数)と幸福度の関係も調べました。
結果、行きつけの場所の多さは幸福度にほとんど影響しないとのこと。

反対に、「訪問エリア数」――つまり、月に1回でも1時間以上滞在した場所の数――が多い人ほど幸福度が高いという結果が出ました。
それも、近場でも構わないのです。
要は「新しい体験の数」が幸福を左右する。

言い換えれば、「固定された安心感」ではなく、「小さな発見の積み重ね」が人を幸せにするということ。
これは人生のどんな場面にも当てはまりそうです。


行動の多様性が、幸福を育てる

慶應義塾大学の前野隆司教授(幸福学の研究者)は、この結果について「行動の多様性が幸福感につながる」と述べています。
訪問エリアが多いというのは、裏を返せば“行動が多様”だということ。
いろんな場所に行くことで、違う人に出会い、違う体験を重ね、結果として「自分の世界が広がる」。
それが幸福感の正体だと考えられます。

実際、調査でも「訪問エリアが多い人ほど、新しい出会いが増えた」「住んでいるまちへの愛着が高まった」という傾向が見られたそうです。
出かけるという行為は、単に距離を動くことではなく、「関係性」や「感情の範囲」まで広げているのかもしれません。


「生きていける場所を増やす」という生き方

私はこの研究を読んで、「生きていける場所を増やす」という言葉が頭に浮かびました。

同じ場所にいると、どうしても「ここだけが自分の居場所」と思い込んでしまう。
でも、移動して新しい環境に身を置くと、「ここでも生きていける」「あっちにも自分の居場所がある」と感じられるようになる。
その“生きていける場所の多さ”こそが、幸福度を上げるのだと思うのです。

もちろん、無理して毎日遠出する必要はありません。
近くの公園でも、ちょっと違う道を通るだけでもいい。
あるいは、いつもと違うカフェに入るだけでも。
それが小さな“移動”であり、“探索”です。

ここ最近では、松江・米子、京都が個人的にお気に入りのエリアです。
理由は不明ですが、なぜか惹かれるんです。(2拠点生活に憧れるw)


移動がもたらす「幸福の筋トレ」

ヘラー准教授は、「新しい場所に行くことで脳が鍛えられ、ストレスへの耐性が高まる」とも言っています。
まるで筋トレのように、移動を重ねることで“幸福を感じる力”そのものが育っていくというのです。
そう考えると、移動とは「心の筋トレ」でもあるのかもしれません。

動けば疲れます。面倒にも感じます。
けれど、その少しのエネルギーを使って外に出てみると、見える景色が違う。
そしてまた、自分の中に少しの余裕とポジティブな気持ちが生まれる。
それが積み重なることで、人生全体の幸福度がじわじわと上がっていく。


おわりに──動くことで、幸せは育つ

「移動距離が長い人ほど、幸せらしい。」

この言葉は、単なる統計ではなく、日々の感覚としても実感できるものだと思います。
遠くまで行くことが目的ではなく、いろんな場所に足を運び、いろんな空気を感じること。
その積み重ねが、人生を少しずつ豊かにしてくれる。

だからこそ、これからも私はできるだけ動こうと思います。
遠くへ、そして新しい場所へ。
それがきっと、幸せに近づく一番シンプルな方法だからです。



◻︎◻︎出典:生活総研 デジノグラフィ 「位置情報データからみえる「移動と幸せ」の関係」
     https://seikatsusoken.jp/diginography/20378

【本日の一曲】
Count Basie And His Orchestra – April In Paris