2025 11 06

大阪・国際万博が描く“循環する未来”。 

― 大阪・関西万博の資材リユースがつなぐ、次世代への“循環の物語” ―

2025年の大阪・関西万博の開幕が近づく中、その「閉幕後」に注目が集まりつつあります。
万博という巨大な祭典は、6か月間の開催が終われば解体を迎えます。
しかし今回の万博は「使い捨て」で終わらない。
木材、建材、設備、什器——すべての資源を新しい形で“次の場所へつなぐ”という挑戦が進んでいます。


■ 万博の木が、賃貸住宅へ生まれ変わる

大東建託が発表したニュースが、その象徴的な取り組みです。
同社は、大阪・関西万博の会場で使われた木材を全国で建設する賃貸住宅に再利用する方針を打ち出しました。
各都道府県で少なくとも1棟以上の住宅に活用される予定で、使用される木材の総量はなんと約9,100本分にのぼります。

再利用されるのは、万博会場内で音楽イベントなどが行われた「ポップアップステージ」の木材。
このステージの観客席には国産材がふんだんに使われており、解体後は壁の下地材などとして再び住宅の一部に生まれ変わります。

年間約5,000棟の賃貸住宅を手がける大東建託にとっても、これは単なるリサイクルではありません。
「万博のレガシーを住まいの中に活かす」という象徴的なプロジェクトであり、
建設業界が抱える環境負荷への挑戦でもあります。


■ 建設業が抱えるCO₂の課題と、再利用の可能性

日本のCO₂排出量のうち、約4割を占めているのが建設分野だといわれます。
建築資材の製造・運搬・施工、そして解体。
これらの工程すべてにエネルギーが必要であり、同時に大量の廃棄物も生まれます。

その中で、大東建託は「資材の再利用」「建設・解体の効率化」によって、
2030年度までに温室効果ガス排出量を2017年度比で55%削減するという明確な目標を掲げています。

つまり、今回の万博木材リユースは「未来の建築のスタンダードを示す実験」とも言えます。
“作っては壊す”時代から、“使いながらつなぐ”時代へ。
この意識の転換こそが、脱炭素社会を支える大きな柱になるのです。


■ 施設・木材・什器まですべてをつなぐ「リユースマッチング」

大阪・関西万博では、こうした再利用の取り組みを体系的に支えるために、
**「Reuse Matching Project(リユースマッチング事業)」**が立ち上げられています。

このプロジェクトは、万博閉会後に発生する建築物・建材・アート作品・設備・備品などを
「廃棄」ではなく「再活用」へ導く仕組みです。
Web上には「万博サーキュラーマーケット ミャク市!」というマッチングシステムも設けられ、
出品者(=万博施設側)と、再利用を希望する企業・自治体・団体をつなぎます。

この“ミャク市”では、単に木材や什器を引き取るだけでなく、
その素材がどこで、どのように生まれ変わるのかを可視化。
ごみを出さない“循環経済”の実現を目指しています。


■ 解体は「終わり」ではなく、「始まり」

リユースマッチングのスケジュールを見ると、
2025年春の閉幕後から翌年にかけて、解体・引渡し・再利用が順次進められます。

  • 建物やパビリオンは丁寧に解体され、別の場所へ「移築」
  • 建材や設備(照明、空調、壁材など)は取り外して再利用
  • 机・椅子・プリンターなどの備品もリユース対象

万博の会場が静まり返るその時から、次の物語が始まるのです。
“再利用されることを前提にした万博”という設計思想こそが、
今回の大阪・関西万博を特徴づける最大のポイントと言えるでしょう。


■ 愛媛県でも動き出す“木のレガシー”

こうした動きは民間企業だけにとどまりません。
2025年10月、愛媛県は万博の象徴である「大屋根リング」に使われた木材を無償で譲り受け、
翌年開催の第76回全国植樹祭で再利用することを発表しました。

この大屋根は、高い断熱性と強度を持つ大型木製パネルで構成されており、
使用された木材の約8割が愛媛県産。
“ふるさとへ帰る木”とも言える再利用です。

再活用の場は、植樹祭に出席される天皇皇后両陛下の歩道や、出演者のステージ。
単なる資材の再利用にとどまらず、
「森林資源の循環利用を目に見える形で示す」という意義が込められています。

さらに、万博の「住友館」で使用された植林体験用の苗木も無償で譲り受け、
植樹祭後には“万博2025の森”として整備される予定。
ここにも、自然と人、産業と地域をつなぐストーリーが息づいています。


■ 万博の理念と“循環”のデザイン

今回の大阪・関西万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。
この「未来社会のデザイン」の中には、
“資源をどう循環させ、どう次世代へ渡していくか”という考え方が深く根づいています。

かつての万博は、最先端技術のショーケースとして注目されてきましたが、
2025年の万博は**「持続可能性」そのものを体現する実験場**となります。
会場で使われた素材が解体後にどう活かされるか、
それを誰がどう再利用するか——
この「出口設計」が、すでに企画段階から組み込まれているのです。

つまり今回の万博は、閉幕後こそが本番。
その「資源の第二章」こそが、本当のレガシーになります。


■ 地方にも広がる“万博木材”の循環

今後、愛媛県を皮切りに、万博の木材は全国各地へと旅立ちます。
賃貸住宅の壁材として、学校の机や図書館の棚として、
あるいは地域の公園や遊歩道のベンチとして——。

それぞれの土地で再び息を吹き返す木材たちは、
日本各地の暮らしの中で“静かな証人”となるでしょう。

こうした循環の輪が広がることで、
「万博が終わったあとも、私たちの生活の中にその一部が残る」という新しい感覚が生まれます。
これまでのように“イベントのために作って、終わったら壊す”という時代ではなく、
“つなぐために作り、使いながら次へ引き継ぐ”という文化へ。


■ 木が語る、未来へのメッセージ

木材は、長い年月をかけて育った自然の恵みです。
それを一度のイベントで使い捨てにしてしまうのは、あまりにももったいない。
しかし、今回の万博ではその木が再び社会に還元され、
新たな命を宿していくプロセスが設計されています。

もしかすると、未来のある子どもが自分の住む家の壁を見て、
「この木、万博のステージで使われてたんだって」と聞くかもしれません。
そうした“記憶を引き継ぐ建築”が、これからの時代に求められているのです。


■ 万博が終わった後に残る「目に見えない遺産」

大阪・関西万博が終わっても、
そこから生まれた理念や木材は日本各地で生き続けます。
それは単なる物質のリユースではなく、
「未来への態度」「持続可能性への意思」を共有する社会的なリユースでもあります。

そしてこのプロジェクトが成功すれば、
建設・イベント・行政・地域が一体となった“新しい循環モデル”として、
次の世代の都市開発にも影響を与えていくでしょう。


■ まとめ:万博が描く“循環する未来”

  • 万博の木材は全国の賃貸住宅や公共施設に再利用される
  • 大東建託・愛媛県などが率先して脱炭素化・再資源化を推進
  • 「ミャク市!」を通じたリユースマッチングで資源の循環を実現
  • 建設業のCO₂削減・環境配慮の新しいモデルへ
  • そして、木材に込められた物語が次の世代へ受け継がれていく

大阪・関西万博が掲げる「いのち輝く未来社会」は、
派手な演出や建築のデザインだけではありません。
閉幕後に“どんな形で生き続けるか”こそが、真の輝きなのです。

◻︎◻︎出典:大阪・国際万博 Reuse Matching Project リユースマッチング
     https://www.expo2025.or.jp/future-index/green/reuse-matching/

【本日の一曲】
Mos Def – Auditorium (featuring Slick Rick)