相続税対策でアパート経営とは?
人口減少時代でもアパートが増える理由を徹底解説
「人口が減っているのに、なんでアパートがこんなに増えているんですか?」
不動産の仕事をしていると、そんな疑問を投げかけられることがよくあります。
実際、地方では少子化・人口減少が続き、空室率が高い地域も増えています。それなのに、新築アパートが次々と建つ。その理由のひとつが “相続税対策” です。
特に多くの資産を持つご家庭では、現金のまま相続するよりも、アパートを建てて不動産として相続した方が相続税が大きく減る場合があります。
本記事では、その仕組みやメリット・デメリット、注意点まで、専門家視点でわかりやすく解説します。
■なぜアパートが相続税対策になるのか?
結論から言うと、アパート(賃貸不動産)として相続すると評価額が下がるからです。
同じ1億円でも、「現金の1億円」と「1億円で建てたアパート」では、相続税評価額がまったく異なってきます。
●1. 現金1億円を相続した場合
相続税は以下のように計算されます。
- 基礎控除額:3,000万円+(600万円×相続人1人)=3,600万円
- 課税対象額:1億円−3,600万円=6,400万円
- 相続税額:6,400万円×30%−700万円(控除額)=1,220万円
つまり、現金1億円の場合、約1,220万円の相続税が必要になります。
●2. 1億円で建てたアパートを相続した場合
設定は以下のとおりとします。
- 建物:6,000万円
- 土地:4,000万円
- 路線価評価:実勢価格×80%
- 固定資産税評価:実勢価格×70%
- 借地権割合:60%
- 借家権割合:30%
- 満室(賃貸割合100%)
これで計算すると…
●土地の評価額
4,000万円 × 80% ×(1 − 60%×30%×100%)= 2,624万円
●建物の評価額
6,000万円 × 70%= 4,200万円
●相続税額
(2,624万円+4,200万円 − 3,600万円)×20% − 200万円(控除額)= 444万8,000円
■現金1億円と比較すると?
- 現金:相続税 1,220万円
- アパート:相続税 約445万円
その差は 約775万円。
同じ1億円でも、アパートに変わるだけで相続税は大きく圧縮されます。
■アパートで相続税対策をするメリット
① 相続税を大幅に減らせる
前述のとおり、現金と不動産では評価額が大きく異なります。
賃貸物件は「貸している状態の不自由さ」があるため評価を下げられるのです。
② 賃貸収入を得られる
相続後も、アパートは収益を生み出します。
- 家賃収入がある → 生活の安心を支える
- 所得税は減価償却で圧縮できる
- 現金相続と比べて“資産が育つ”
などのメリットが得られます。
③ 建築費の借入でも評価が下がる
アパートローンを使って建築した場合、
- 借入金=そのまま相続財産から控除
- 建物の評価は固定資産税評価額(通常低い)
よって、借金をして建てるほど相続税評価はさらに下がるという構造にもなっています。
■アパート経営のデメリットとリスク
もちろん、良いことばかりではありません。
① 空室リスク
入居が付かなければ、
- 家賃収入が減る
- 返済負担が重くなる
- 評価減が小さくなり、節税効果も薄れる
という負の連鎖が起きます。
② 建築費による生活資金への影響
1億円をアパートに使えば、当然ながら手元の現金は減ります。
いざという時の生活資金や医療費など、必要な現金が不足する可能性は無視できません。
③ ローン返済のリスク
金利上昇、空室、事故物件化など、返済を脅かす要因はさまざま。
返済計画は慎重に設計する必要があります。
■借地権割合・借家権割合とは?
相続税評価が下がる理由は、借りている人がいると土地を自由に使えないためです。
●借地権割合
路線価図で決まっており、一般住宅地では60~70%が多い。
●借家権割合
全国一律30%。
●賃貸割合
貸している床面積の割合。
例:5室中4室を貸す → 賃貸割合80%。
アパートの土地評価額は
土地評価額 ×(1 − 借地権割合×借家権割合×賃貸割合)
で、これが相続税評価を大きく下げるポイントです。
■ローン(借入)を使うとさらに相続税は軽減される
アパートローンを利用して建築すると、
- 資産:建物(ローン金額より低い固定資産税額で評価)
- 負債:借入金(ローン金額満額で控除)
評価差が生まれ、相続税はさらに抑えられます。
預貯金を持っているほど、この効果は大きくなります。
■相続税だけを目的にアパートを建てると危険
ここが最重要です。
■「節税のためだけ」の建築は失敗しやすい
相続税が減る数字ばかり目を向けると、
- 入居がつかないエリアでも建ててしまう
- 収益性の低いプランを選んでしまう
- 修繕費や将来の入れ替え費用を考えない
- 家族の意向とズレる
など、経営が破綻するケースが後を絶ちません。
■本来の目的は“安定した収益を生む不動産にすること”
節税効果は、「適切に運営される賃貸経営」という土台があって初めて成立します。
- 家賃設定
- 入居需要
- 建物の質
- 管理会社の選定
- 長期修繕計画
- 家族全員の理解
これらを総合的に考え、**めざすは「節税できる収益不動産」**です。
■相続税対策としてのアパート経営は“正しく使えば強力”
アパートは、相続税評価が下がる特徴をもっています。
- 現金 → 評価そのまま
- アパート → 貸家建付地・固定資産税評価・借家権などで評価減
その結果、 同じ1億円でも相続税が半分以下になることも珍しくありません。
しかし、あくまで本質は「アパート経営」。
節税だけで建てると痛い失敗につながります。
■アパート経営で大切なのは
- 節税だけに囚われず、収益性を最優先にすること
- 相続後も安定して家賃収入が入る仕組みを作ること
- 家族全体で方向性を共有しておくこと
相続税対策は、単発のテクニックではなく、“資産をどう残すか”という長期的な戦略です。
数字の仕組みを正しく理解し、信頼できる専門家と一緒に進めることで、アパートは非常に強力な相続対策になり得ます。
【本日の一曲】
Tems – What You Need