「ため池ハザードマップ」ご存知ですか?
〜香川県に暮らすなら知っておきたい “水の文化” と防災の話〜
瀬戸内海沿岸の地域では、昔から「雨の少ない土地」として知られています。特に香川県・兵庫県・広島県は、瀬戸内式気候による少雨の影響で、農業を支えるために数えきれないほどの「ため池」が築かれてきました。
そのため、これらの地域は美しいため池風景が日常の一部である一方、「ため池ハザードマップ」を備えている市町村が非常に多いという特徴もあります。
この記事では、ため池が生まれた背景や役割、香川の歴史、そして防災としての「ため池ハザードマップ」の見方や大切さについて、少し深く掘り下げてみます。
■ため池ハザードマップとは?
大きな地震や集中豪雨でため池が破損・決壊した場合、
「どの範囲が浸水するのか」
「どれくらいの時間で水が到達するか」
「どこへ避難するべきか」
といった情報を示した地図のことです。
ため池が多い地域では、一般的な洪水ハザードマップや高潮ハザードマップだけでなく、ため池独自のハザードマップが整備されています。
香川県のように“ため池密度が全国1位”というエリアでは、防災の基本知識として欠かせないものと言えます。
ちなみに香川県は太平洋・日本海のどちらにも面しておらず、瀬戸内海という穏やかな内海に守られているため「津波警戒区域」がありません。
その意味でも、ため池ハザードマップは地域独自の防災情報として重要性が高いのです。
■ため池の役割 〜水をためる以上の価値〜
ため池というと「農業用水のための施設」と思われがちですが、実はその役割は多岐にわたります。
●1. 農業用水源として
香川県のため池の総貯水量は 約1億5千万立方メートル。
これは県内の農業用水の半分以上を支える膨大な量であり、昔から現在に至るまで、農業と暮らしを支える生命線の役割を担ってきました。
●2. 洪水調整機能
ため池は夏に水を供給し、台風が多い秋には余裕を持たせることで、
「大雨のときに水を受け止めて河川の氾濫を防ぐ」
というダムのような役割も持っています。
●3. 地域住民の憩いの場
散歩やジョギング、釣りなど、ため池は生活に寄り添う風景としても親しまれています。
四季折々の景観を楽しめる水辺空間としての価値も大きいです。
●4. 香川用水の調整池として
香川用水は県内の水田の約80%を支えていますが、直接取水できない地域は、まずため池に水を貯めることで用水の恩恵が行き渡ります。
節水しながら計画的に利用できる仕組みでもあります。
●5. 地下水の涵養
ため池に水をためることで、地下にゆっくりと水が浸透し、地盤沈下の防止にも貢献しています。
●6. 生態系をつくる場所
水を求めて集まる動植物が豊かな生態系をつくり、自然観察の場所としても魅力があります。
■香川県とため池の歴史
●“ため池王国”が生まれるまで
香川県は全国一の小さな県ですが、ため池数は全国3位。
そして「ため池密度」は日本一。
これは、年間降雨量が全国平均の3分の2しかなく、降った雨も地形的にすぐ流れ出てしまうため、昔から“水との戦い”が続いてきたことを物語っています。
●満濃池と空海
日本最古のため池といわれるのが「満濃池」。
約1300年前に築造され、一度決壊しますが、その修築を命じられたのが弘法大師・空海です。
空海はアーチ型の堤防や洪水吐など、革新的な工法を取り入れ、わずか3ヶ月で修築を成し遂げたと伝わります。
その後も破堤と修築を繰り返しながら、地域の農業と暮らしを支えてきました。
●江戸時代の水利改革 〜西嶋八兵衛〜
築城技術を応用して多くのため池を造った西嶋八兵衛は、香川の水利整備に大きく貢献した人物です。
彼が改良した五つの取水口を備える「ゆる」は、効率的な取水の仕組みとして現在も語り継がれています。
■昔の人々が生み出した“水をめぐる知恵”
香川は水が少ないため、水争いが絶えませんでした。
そこで生まれたのが讃岐独特の水利慣行「水ブニ」。
●線香水
田の面積に応じて線香の長さを決め、燃え尽きるまでの時間で配水するというもの。
線香が終わると太鼓を打ち鳴らすという、非常に合理的な仕組みでした。
●香の水(こうのみず)
灰の溝に抹香を詰めて燃やし、燃焼時間で水量を管理した方法です。
●時計の導入
昭和30年代からは鍵付きの時計が使用され、不正や争いを防ぐ工夫がされました。
これらの仕組みは、時代とともに姿を変えても「水を大切にしよう」という精神は今も残っています。
■ため池関連の学びスポット
●香川用水資料館(高松市)
プロジェクションマッピングやドローン映像など現代的な展示で、香川用水の歴史を学べます。
●香川用水記念公園「水の資料館」(三豊市)
昔のため池工法を体験できる展示が多く、子どもから大人まで楽しめる施設です。
■まとめ 〜ため池ハザードマップを見ることは、地域の歴史を知ること〜
香川県は全国有数のため池県。
その裏には、雨の少ない土地で暮らしを守るために、先人たちが何百年もかけて築き上げた“水の知恵”があります。
ため池ハザードマップは、単なる防災資料ではなく、
「水とともに生きてきた歴史と文化の記録」
と言えるかもしれません。
日頃散歩で見かけるあの池も、実は地域の暮らしを守る大切なインフラです。
ぜひ一度、お住まいの地域のため池ハザードマップを確認し、もしもの時の備えと、香川の水の文化を感じてもらえればと思います。
◻︎◻︎出典:中四国農政局 香川のため池探検隊
https://www.maff.go.jp/chushi/kids/kagawa/index.html
(公社)香川県観光協会
【本日の一曲】
Cannonball Adderley · John Coltrane · John Golden · Raymond Hubbell – Poor butterfly