2025 12 08

未然に避けることの大事さ

― 不動産・建築の現場で本当に大切にしていること ―

「武道の究極は“戦わないこと”にある」

この言葉を耳にしたとき、私は不動産の仕事にも深く通じるものがあると感じました。
武道の達人とは、強く戦える人のことではありません。
“そもそも争いが起きないようにすること”
“相手を不安にさせないこと”
“危険な芽を早いうちに摘み取ること”
これらを、静かに、確実に行える人のことを指します。

不動産取引や建築のプロセスには、土地・建物・法規・関係者・感情が複雑に絡み合い、いつ問題が起きても不思議ではありません。しかし、本当に必要なのは「トラブルが起きてからどう対処するか」ではなく、トラブル自体を起こさないことです。

そして私は、この“未然に避ける力”こそ、不動産・建築に関わるプロが持つべき最高の価値だと思っています。


■ 不動産・建築の現場は「問題の温床」になりやすい

土地を買い、設計し、建築し、引き渡し、入居し、運営し……
ひとつの不動産が形になるまでには、数えきれないほどの工程があります。

・土地の境界や地中の問題
・法規制、許可申請、建築基準
・近隣との調整
・予算、工程管理
・オーナー様と入居者様、売主様と買主様の価値観の違い
・工事会社との技術的なすり合わせ

これらのどこかにわずかなズレや誤解があるだけで、大きな問題に発展する可能性があります。

しかも不動産取引は人生でそう何度も経験しないため、一般の方にとっては「自分が何を知らないかすら分からない世界」です。言い換えれば、トラブルを感じていなくても、実はトラブル寸前ということが多々あるのです。

だからこそ、事前の確認・配慮・想像力が欠かせません。


■ 問題が起きてから解決するのは「プロではなく、ただの対処役」

もちろん、問題が起きたとき迅速に動き、落ち着いて調整し、最善の落としどころを見つけることも大切です。
しかし、それはプロとして「当たり前」のこと。

本当の価値はそこではありません。

・事前に危険の芽に気づいて取り除く
・後で苦労するポイントを先に説明しておく
・関係者全員の感情と立場を理解し、摩擦が起きない動線を作る
・複数の選択肢を示し、判断に迷わないようにする
・法的・技術的なリスクを早い段階で可視化する

これらは表に出ません。
お客様は気づきません。
「何も問題がなかった」としか感じません。

しかし実際には、その裏側に数十の調整や確認が存在しています。

“問題が起きなかった”という結果は、偶然ではなく、
プロの手で綿密に作られた状態なのです。


■ 問題が「表に出ないこと」が最高のサービス

私は最近、次のように考えることが増えました。

うまく問題を解決したからすごいのではない。
そもそも問題を発生させないようにすることが最も価値がある。

不動産の取引後、住宅が完成した後、賃貸運営が始まった後……
すべてが“何事もなく”“スムーズに”流れていくことが、最大の満足につながります。

多くの方は「不動産取引=トラブルがつきもの」というイメージを持っています。
しかし本来、そうあるべきではありません。

透明性を高くし、情報を正しく伝え、感情のすれ違いを防ぎ、小さな不安も潰し、
「平穏な状態」を守り続けること。

この“静かな仕事”こそ、実は一番難しく、経験と技量が求められる部分です。


■ 不動産のプロに必要なのは「危機回避力」と「感情の読み取り」

不動産や建築のトラブルの多くは、
実は 感情のすれ違い からも生まれています。

・言った/言っていない
・思っていたのと違う
・説明された気がしない
・不安だったが聞けなかった

そして、この感情ケアができる人こそ、本物のプロです。

不動産取引は金額が大きく、人生の転機に関わるもの。
だからこそ、

“感情の火種” をいかに早い段階で察知して消しておくか
これが最も重要なのです。


■ 「何も起こらなかった」という最高の成果

トラブルがなかった取引ほど、プロとして手応えを感じます。

もちろん表には見えません。
お客様には伝わりません。
むしろ「何も起きなかった」ので、価値が見えづらいかもしれません。

でも、それでいいのです。

お客様がストレスなく安心して取引を終えられたなら、
その影には必ず、たくさんの“未然の仕事”があります。

これは武道の「戦わないこと」にも似ています。

強さを見せつけるのではなく、
争いが起きないように道を整え、
静かに平穏を守る。

そんな仕事が、私はとても好きです。


■ これからも「未然」にこだわり続ける

不動産・建築は、これからもっと複雑になっていきます。
法改正、人口構造の変化、建物の老朽化、価値観の多様化、デジタル化……
どれを取っても、以前より難易度が上がっています。

だからこそ“未然に避ける力”の重要度はますます高まります。

・丁寧なヒアリング
・小さな違和感へのアンテナ
・根拠のある説明
・法的・技術的な裏付け
・関係者の心理を推測する力

こうした積み重ねが、不動産において最も価値の高いサービスです。


■ さいごに

これからも、
“戦わないための準備”を誰よりも丁寧に
“問題が起きる前に静かに取り除く”ことを徹底的に
実践していきます。

そして、お客様には安心して任せてもらえるよう、
今日もまた、見えない部分の仕事を積み重ねていくつもりです。

【本日の一曲】
Tyrone Brunson – The Smurf