30年ぶりの金利水準に戻った今、家計の中で何が起きているのか
― 家計の金融行動調査から見える「静かな変化」 ―
「金利が上がった」「物価が高い」「生活が苦しい」
こうした言葉を日常的に耳にするようになりました。2024年から2025年にかけて、日本の金利環境は大きな転換点を迎え、長らく続いた“超低金利時代”は明確に終わりを告げつつあります。
では、この変化は実際に家計へどのような影響を与えているのでしょうか。
感覚的な不安やSNS上の極端な成功例ではなく、公的な調査データから読み解いてみたいと思います。
日本人の貯蓄額は「実は増えている」
金融広報中央委員会が公表した
「家計の金融行動に関する世論調査（2025年）」 によると、まず驚かされるのは貯蓄額の増加です。
総世帯全体の金融資産（不動産を除く）を見ると、
- 平均値：1,600万円（前年から＋355万円）
- 中央値：500万円（前年の250万円から倍増）
という結果になっています。
物価上昇が続く中で「家計は苦しくなっている」という印象が強い一方、
統計上は“資産を増やしている世帯が増えている” ことがはっきりと示されています。
単身世帯と複数世帯で異なる動き
より詳しく見ると、世帯構成によって傾向は異なります。
単身世帯
- 平均値：919万円（前年差 ▲70万円）
- 中央値：130万円（前年差 ＋30万円）
平均値はやや下がったものの、中央値が初めて100万円を大きく超えた点は注目に値します。
これは「一部の富裕層」ではなく、全体として底上げが起きていることを示しています。
2人以上世帯
- 平均値：1,940万円（前年差 ＋566万円）
- 中央値：720万円（前年差 ＋370万円）
こちらは非常に大きな伸びを示しており、
家族世帯を中心に資産形成が一段進んだことが読み取れます。
なぜ資産は増えたのか ― 最大の要因は「投資」
調査では「金融資産が増えた理由」も尋ねられています。
その中で最も多かった回答が、
- 株式・投資信託などの価格上昇
- 配当・利子収入
つまり、投資による増加です。
2024年以降、新NISA制度の拡充もあり、
全世界株式やS&P500といったインデックス商品に資金が流入しました。
調査時点（2025年6月）でも、これらの指数は前年比で20％超の上昇を記録しています。
「投資への意識」は確実に変わっている
今回の調査で特に象徴的なのが、投資に対する意識の変化です。
「金融商品を選ぶ際、何を重視するか」という質問に対し、
- 「将来の値上がりが期待できるから」と答えた割合は年々増加
- 「元本が保証されているから」と答えた割合は、2007年比で約10％低下
また、
- 「元本割れの可能性があっても収益性の高い商品を保有したい」
と答えた人は、約20％に迫る水準まで増えています。
これは、日本人の中で長く根付いていた
「現金が一番安全」という考え方が、少しずつ揺らぎ始めていることを示しています。
インフレと金利上昇が突きつける現実
日本は約30年間、デフレに近い経済環境が続きました。
その間は、現金を持っているだけでも大きな不都合はありませんでした。
しかし現在は違います。
- 食料品
- 光熱費
- 外食費
- 住宅関連コスト
あらゆる生活コストが上昇し、
現金の価値そのものが目減りする局面に入っています。
金利が上がったとはいえ、
預金金利だけでインフレを上回ることは難しく、
「何もしない」という選択が、結果的にリスクになる時代になりました。
不動産・住宅との関係で考える家計
金利上昇は、住宅ローンや不動産価格にも影響を及ぼします。
今後は、
- 住宅取得のタイミング
- ローンの組み方
- 老後を見据えた住まいの持ち方
といった判断において、
家計全体の金融資産とのバランスがより重要になります。
投資・貯蓄・不動産は、もはや別々に考えるものではなく、
「家計全体の資産設計」として捉える必要がある時代です。
まとめ
- 日本人の金融資産は、統計上「増加傾向」にある
- 特に2人以上世帯で資産増加が顕著
- 背景には投資の普及と意識変化がある
- インフレ時代では現金だけでは資産を守れない
- 金利上昇は、住宅・不動産の判断にも直結する
「なんとなく不安」な時代だからこそ、
数字と現実を冷静に見つめ、家計を考えることが求められています。
◻︎◻︎出典：金融経済教育推進機構 家計と金融行動に関する世論調査(2025年)
https://www.j-flec.go.jp/wpimages/uploads/point2025.pdf?_gl=1*1arujd5*_ga*Nzg5MTc0NzU0LjE3NjY3NjU5NjU.*_ga_39J3GVK9DQ*czE3NjY3NjU5NjQkbzEkZzEkdDE3NjY3NjU5ODEkajQzJGwwJGgw
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