金利のある世界
――「当たり前」ではなかった時代が、再び動き出す
日本銀行は、政策金利を0.25%引き上げ、0.75%程度とすることを決定しました。
これは1995年以来、およそ30年ぶりとなる高い水準です。
長く続いた「超低金利」「ゼロ金利」が、ようやく終わりを迎え、日本は本格的に**「金利のある世界」**へと足を踏み入れました。
この変化は、ニュースとして見れば数字の話に過ぎないかもしれません。しかし、住宅ローン、不動産購入、家計、企業経営など、私たちの生活のあらゆる場面に静かに、しかし確実に影響を与えていきます。
今回は、今回の日銀の利上げが何を意味するのか、そして住宅ローンや不動産にどのような影響があるのかを、できるだけ分かりやすく整理してみたいと思います。
なぜ今、日銀は利上げに踏み切ったのか
今回の日銀の利上げの背景には、いくつかの要因があります。
まず一つは、長引く物価高と円安です。
エネルギーや食料品を中心とした物価上昇は、家計にも企業にも大きな負担となってきました。円安は輸出企業には追い風となる一方で、輸入物価を押し上げ、生活コストの上昇を招いています。
日銀は為替水準そのものを政策目標としていませんが、金融政策が為替に与える影響は大きく、過度な円安を是正する意味でも、利上げは避けられない局面に来ていたと言えるでしょう。
また、今年1月に一度利上げを行った後、日銀はトランプ関税など海外経済の不透明感を見極めるため、6会合連続で利上げを見送ってきました。しかし、実際には高関税が企業収益に与える影響は当初の想定ほど大きくなく、来年の春闘でも高い水準の賃上げが見込まれています。
物価と賃金がともに上昇する環境が整いつつある中で、日銀は「金融政策の正常化」を一段進める判断をしたと考えられます。
「失われた30年」からの転換点
日本経済は長らく「失われた30年」と呼ばれてきました。
デフレ、円高、低成長――これらが長年の課題でした。
しかし現在、課題は明確に変化しています。
デフレからインフレへ、円高から円安へ。
つまり、これまでと同じ処方箋を使い続けると、逆効果になりかねない局面に入っているのです。政府と日銀は、その舵取りを間違えてはならない難しいフェーズに差し掛かっています。
今後の焦点は、「どこまで金利を引き上げるのか」です。
金融政策には、景気を過度に刺激も冷やしもしない「中立金利」という考え方があります。日銀はこれまで、日本の中立金利を1.0~2.5%程度と推計しています。
今回の0.75%は、まだその入口に過ぎません。
しかし、これまでの感覚からすれば、十分に「金利がある」と感じる水準でもあります。
なぜ日銀が利上げすると住宅ローン金利が上がるのか
では、この利上げは住宅ローンにどのような影響を与えるのでしょうか。
住宅ローンの金利タイプは、大きく分けて変動金利と固定金利の2種類があります。この2つは、基準としている金利が異なります。
変動金利
変動金利は、**短期金利(短期プライムレート)**を基準にしています。
短期金利は、日銀の政策金利の影響を直接受けるため、日銀が利上げを行うと、変動金利は上昇しやすくなります。
固定金利
一方、固定金利は、10年物国債の利回りなどの長期金利を基準にしています。
長期金利は市場で決まるため、日銀の政策だけでなく、景気見通しや投資家の心理など、さまざまな要因で動きます。
そのため、今回の日銀の利上げによって、直接影響を受けるのは変動金利ということになります。
変動金利には「急に返済額が上がらない」仕組みがある
「金利が上がる=すぐに返済額が跳ね上がる」と不安に感じる方も多いかもしれません。しかし、変動金利には一定の歯止めとなるルールがあります。
それが「5年ルール」と「125%ルール」です。
これらは、元利均等返済で住宅ローンを組んだ場合に適用されます。
5年ルール
変動金利は半年ごとに見直されますが、毎月の返済額は5年に1度しか変更されません。
金利が上昇しても、当面の返済額は据え置かれます。
ただし、返済額が変わらないだけで、金利の上昇が消えるわけではありません。
利息の割合が増え、元金の返済割合が減るため、元金が減りにくくなる点には注意が必要です。
125%ルール
返済額が見直される場合でも、前回返済額の125%までしか増えないという制限があります。
たとえば、月10万円の返済であれば、最大でも12万5,000円までです。
それ以上の利息は繰り延べされ、将来に持ち越されます。
この仕組みは急激な負担増を防ぐ一方で、金利上昇が長期間続くと、最終的な支払利息が増えるリスクも含んでいます。
香川県では「固定金利」が主流だった理由
ここ香川県では、もともと固定金利の住宅ローンが主流でした。
私自身がこれまで担当してきたお客様も、10年固定や全期間固定の商品を選ばれるケースがほとんどです。
これは、「金利の先行きが読めない中で、将来の安心を重視する」という地域性や考え方も影響していると感じています。
結果として、今回のような金利上昇局面では、固定金利を選択されてきた方々は、比較的有利な立場にあります。
毎月の返済額が変わらない安心感は、家計にとって大きな価値です。
10年固定の「その後」が重要になる時代
ただし、10年固定を選ばれた方には、いずれ商品切り替えのタイミングが訪れます。
その時の金利水準やライフステージによって、最適な選択は変わります。
・再び固定にするのか
・変動に切り替えるのか
・返済期間をどう考えるのか
今年も実際に、10年固定の期限を迎えるお客様に対して、ファイナンシャルプランナーと連携しながら、複数の選択肢をご提案してきました。
「住宅ローンは借りたら終わり」ではありません。
定期的な見直しこそが、金利のある世界では重要になってきます。
金利とどう向き合うかが、これからの暮らしを左右する
金利があること自体は、決して悪いことではありません。
健全な経済成長のためには、ある程度の金利は必要です。
大切なのは、「金利が上がるから不安になる」のではなく、
金利の仕組みを理解し、自分に合った選択をすることです。
住宅ローン、不動産購入、資産形成――
これからは、より一層「考えて選ぶ時代」になります。
もし、住宅ローンや金利について不安や疑問があれば、いつでもお気軽にご相談ください。
金利のある世界でも、安心して暮らしを築いていけるよう、しっかりとサポートしていきたいと思います。
【本日の一曲】
Kenny Dope – Get On Down