【植物のある暮らし|山茶花(サザンカ)編】
晩秋から初冬、静かな季節に咲く日本人好みの花
12月に入り、庭の空気が一段と澄んできました。
夏の名残を引きずるような暖かさがようやく落ち着き、朝夕の冷え込みに「冬の入口」を感じる頃です。
そんな季節の変わり目、敷地の入り口に植えている木が、今年も静かに花を咲かせ始めました。
これまで椿だと思って眺めていたこの花、改めて調べてみると**山茶花(サザンカ)**でした。
秋から少しずつ膨らんでいた蕾が、晩秋から初冬にかけて次々と開き、緑の葉の中に控えめな彩りを添えています。
派手さはありませんが、どこか寂しげで清楚な佇まい。
サザンカは、まさにこの時期の空気感によく似合う、日本人好みの花だと感じます。
サザンカとは|晩秋に咲く常緑の花木
サザンカ(山茶花)は、ツバキ科ツバキ属の常緑小高木です。
九州・四国、そして周辺の島々から琉球列島にかけて自生し、現在では観賞用として庭や公園にも広く植えられています。
自然状態では純白の花を咲かせますが、観賞用としてはツバキと交雑した園芸品種も多く、
紅、淡紅、紅白、桃色、ぼかし、斑入り、覆輪など、非常に多彩な表情を見せてくれます。
花の形も、一重咲きから八重咲き、大輪、広弁などさまざま。
一輪一輪の花期は短いものの、多花性のため次々と咲き続け、地面に散った花びらの姿を楽しむ人も少なくありません。
高さは10mほどになることもあり、枝分かれが多く、葉をたっぷりとつけるのも特徴です。
冬に花をつける常緑樹として、庭木としての存在感は十分です。
日本文化とともに歩んできたサザンカ
サザンカが庭園樹として植えられるようになったのは、寺院や旧家に残る古木の調査から、室町時代頃と推定されています。
文献上で初めて登場するのは、江戸時代初期の『立華正道集』。
奈良時代の『古事記』にすでに記載があるツバキと比べると、サザンカが文化的に登場するのは約1,000年ほど遅れています。
江戸時代後期、第11代将軍・徳川家斉がサザンカを特に好んだことをきっかけに、栽培が一気に広がったともいわれています。
明治初期にはツバキと同じくヨーロッパへ渡りましたが、
春の明るいイメージを持つツバキに比べ、初冬の寂しげな雰囲気をまとうサザンカは、欧州ではあまり流行しませんでした。
しかし、わびさびを尊ぶ日本人にとっては、その控えめな美しさこそが魅力。
茶花としても長く愛され、俳句の世界でも晩秋から冬の季語として詠まれてきました。
俳句と和歌に詠まれる山茶花
サザンカが初めて俳句に詠まれたのは、芭蕉七部集『冬の日』(1684年)といわれています。
元禄期には盛んに題材とされ、その後一度忘れられながらも、明治以降に再び季語として復活しました。
わが庭の
古木山茶花
咲き出でて
今より後の
冬を紅くす
― 川田順
山茶花は
さびしき花や
見れば散る
― 池上不二子
これらの歌からも、サザンカが持つ「寂しさ」と「美しさ」が同時に表現されていることが分かります。
サザンカという名前について
牧野富太郎博士は、サザンカの名について次のように述べています。
「多分、山茶花から変化したものであろう。しかし、山茶花と書いてこれをサザンカと読むのはよくない。山茶花は元来ツバキの名である。漢名は茶梅が正しい」
サザンカの別名には、
「山ツバキ」「小ツバキ」「油茶」「カタシ」「山茶」「梅茶」などがあります。
「油茶」と呼ばれるのは、ツバキと同様に、種子から油を搾ることができるためです。
この油は古くから利用され、軟膏の原料としても使われてきました。
薬用としてのサザンカ
サザンカの種子には約60%もの油分が含まれています。
この油はツバキ油と同様、軟膏の材料として用いられてきました。
また、葉を煎じた液は香りがよく、洗髪に使われることもあったそうです。
お茶に混ぜると、ほのかな甘みが出るともいわれています。
観賞用としてだけでなく、生活に寄り添う植物だったことが分かります。
ツバキとサザンカの違い
サザンカとツバキは非常によく似ており、間違われやすい植物です。
見分けるポイントはいくつかあります。
最も分かりやすいのは、花の散り方。
・ツバキ:花首から、花ごと落ちる
・サザンカ:花びらが一枚ずつ、ばらばらと散る
また、
・開花時期はサザンカが10〜12月、ツバキは12〜4月
・サザンカの花はやや平面的で薄い
・葉の縁のギザギザ(鋸歯)がサザンカの方が深い
といった違いもあります。
観察時の注意点
サザンカを観察する際は、チャドクガに注意が必要です。
毛虫の毛に触れると強い痒みや湿疹が出るため、剪定や観察の際は手袋を着用するのがおすすめです。
毛虫がいなくても、脱皮殻や葉に残った毛だけで症状が出ることがあるため、葉の状態をよく確認しましょう。
サザンカが教えてくれる季節の移ろい
自宅の庭にある植物たちの成長や開花は、季節を感じる大切な指標です。
ただ最近は、はっきりした「四季」というより、少し二季に近いような気候の変化を感じることも増えました。
それでもサザンカは、晩秋になると変わらず花を咲かせます。
冬枯れへ向かうその少し前、静かに、しかし確かに季節の節目を知らせてくれる存在です。
派手さはないけれど、ひたむきに咲く姿。
サザンカの花言葉である
「ひたむきさ」「困難に打ち勝つ」
という言葉が、自然と重なって見えてきます。
植物のある暮らし
サザンカは、声高に季節を主張しません。
けれど、気づいた人にだけ、静かにその美しさを見せてくれる花です。
忙しい日常の中で、ふと庭先に目を向け、
「今年もこの季節が来たな」と感じられること。
それだけで、暮らしは少し豊かになるように思います。
今年もまた、サザンカとともに冬を迎えました。
植物のある暮らしは、季節を、そして自分自身の時間を、ゆっくり整えてくれます。
◻︎◻︎出典:養命酒製造 生薬ものしり辞典74 晩秋に咲く日本人好みの「サザンカ」
https://www.yomeishu.co.jp/genkigenki/crudem/181030/index.html
【本日の一曲】
CHAI – Live on KEXP at Home