2026 01 01

新年のご挨拶 と「不定時法」の話

― 時間の価値観が変わったとき、暮らしも変わる ―

明けましておめでとうございます。
せとうち不動産の石川です。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。

新しい年を迎えるたびに思うことですが、ここ数年は特に「変化のスピード」が加速していると感じます。金利、物価、人口構造、働き方、住まい方。どれを取っても、少し前までは当たり前だった価値観が、静かに、しかし確実に更新されていっています。

こうした時代において大切なのは、「変化に振り回されること」ではなく、「過去の大きな転換点を知ること」なのではないかと思います。歴史を振り返ると、日本人の暮らしや考え方が根本から変わった瞬間が、いくつも存在します。

今回はその中でも、**「時間の捉え方が変わった瞬間」**についてのお話をしてみたいと思います。


自然を基準にしていた日本の時間感覚

現代の私たちは、1日24時間、1時間60分、1分60秒という「定時法」の世界で生きています。時間は常に一定で、季節が変わっても、場所が変わっても、その長さが変わることはありません。

しかし、この考え方が日本に根付いたのは、実はそれほど昔のことではありません。

西洋文化が本格的に流入する以前、日本では「自然」を基準にして物事を捉える文化がありました。時間も例外ではなく、太陽の動き、季節の移ろい、人の身体感覚と密接に結びついた形で理解されていたのです。

この「自然を基準にする」という考え方は、時間だけでなく、長さや重さの単位にも表れていました。

  SEIKOの歴史と不定時法  わかりやすいです


機械時計以前の時間 ― 不定時法という考え方

時間の捉え方についても、日本には独自の文化がありました。それが「不定時法」です。

江戸時代までの日本では、機械式時計が普及していなかったため、時間は太陽の動きを基準に測られていました。

不定時法では、

  • 一日を「昼」と「夜」に分ける
  • 昼を6等分、夜を6等分する
  • その1単位を「一刻」と呼ぶ

という仕組みが採用されていました。

ここで重要なのは、「一刻の長さが一定ではない」という点です。夏は昼が長く、冬は夜が長い。そのため、昼の一刻と夜の一刻では長さが異なり、さらに季節によっても変化します。

つまり、時間そのものが、常に揺れ動いていたのです。


建築業界にも残る「尺貫法」という感覚

江戸時代の日本では、「尺貫法」と呼ばれる単位系が使われていました。長さの単位は「尺」、質量の単位は「貫」を基本とする体系です。

  • 1尺:約30.3cm
  • 1間:6尺(約1.82m)
  • 1町:60間(約109m)
  • 1里:約3.9km

これらの単位は、人の身体感覚や生活圏に根ざしたものです。腕を伸ばした長さ、歩いた距離、日常の行動範囲。非常に感覚的で、「使いやすい」単位だったとも言えます。

明治時代に入り、日本は国際的な単位統一の流れの中でメートル法を導入しました。1891年の度量衡法公布、1951年の計量法によって、取引や証明の場で尺貫法は使えなくなります。

それでもなお、建築業界では今も「一間」「半間」「尺ピッチ」といった言葉が普通に使われています。私自身、不動産や建築に関わる中で、尺貫法的な感覚が今も生きていることを実感します。

これは、日本人の暮らしがいかに「身体感覚」を大切にしてきたかの表れなのかもしれません。


十二支で表す、柔らかな時間の区切り

不定時法では、時刻の呼び方に十二支が使われていました。真夜中の「子の刻」から始まり、昼夜合わせて12の刻が割り当てられます。

また、「九ツ」「八ツ」といった数字による呼び方も併用されていました。子の刻と午の刻を「九ツ」とし、そこから一刻ごとに数を減らしていく方式です。

このため、「九ツ」は昼と夜に二度登場します。そのため、

  • 夜の九ツ
  • 昼の九ツ
  • 明け六つ
  • 暮れ六つ

といった区別が必要でした。

日の出は「卯の刻六つ(明け六つ)」、日没は「酉の刻六つ(暮れ六つ)」。非常に詩的で、自然と共に生きる感覚がにじみ出ています。


不定時法は「省エネな暮らし」だった

興味深いのは、不定時法が結果的に「省エネな生活」を生み出していた点です。

例えば江戸では、

  • 夏至の頃の卯の刻六つは、現在の午前5時半頃
  • 冬至の頃の卯の刻六つは、午前7時過ぎ

となります。

夏は早く活動を始め、日没までの時間を有効に使う。冬は自然と活動時間が短くなる。これは、現代のサマータイムにも通じる考え方です。

当時の人々は「時間を管理する」のではなく、「自然に合わせて暮らす」ことを当たり前としていました。


定時法への転換がもたらしたもの

明治6年(1873年)1月1日、日本は定時法を正式に採用します。1日を24時間に分割し、時間の長さを常に一定とする仕組みです。

これにより、鉄道、工場、学校、役所といった近代社会のインフラが整備されていきました。一方で、時間は「自然のもの」から「管理するもの」へと変わっていきます。

効率性と引き換えに、私たちは自然との距離を少しずつ広げていったのかもしれません。


時間の価値観が変わると、暮らしも変わる

現代は、再び大きな転換点に立っているように感じます。
働き方改革、テレワーク、地方移住、コンパクトな住まい。これらはすべて、「時間の使い方」を見直す動きとも言えます。

通勤に2時間かける暮らしと、自然の近くでゆったり過ごす暮らし。どちらが豊かかは、人それぞれですが、「選べる時代」になったことは確かです。

不動産もまた、「広さ」や「新しさ」だけでなく、「どんな時間を過ごせるか」が問われる時代に入っています。


近代以降、日本人の暮らしにおいて、物事を測る基準は大きく変化しました。それまで基準となっていたのは、太陽の動きや季節の移ろい、そして人間の身体感覚でした。不定時法における時間の捉え方や、尺貫法に見られる長さの単位は、自然や身体を前提とした合理的な仕組みだったと言えます。

しかし西洋文明の流入とともに、時間や長さは時計やメートル法といった「外部の基準」によって管理されるようになります。そこでは、場所や季節に関係なく同一の尺度が用いられ、生活は均質化されていきました。利便性や効率性は飛躍的に高まりましたが、その一方で、身体の感覚や自然との関係性は次第に希薄になっていきます。

現代では、時間は時計に従い、距離や面積は数値で判断されるのが当たり前です。しかし本来、暮らしとは身体のリズムや環境の変化と密接に結びついていたはずです。物事を測る基準が自然や身体から外部へと移動したことで、私たちは便利さと引き換えに、自分自身の感覚を基準に判断する力を少しずつ手放してきたのかもしれません。

こうした視点で過去を振り返ることは、これからの暮らし方や価値観を見つめ直す上で、大きなヒントを与えてくれるように思います。


新しい年に、時間を考える

不定時法の時代、日本人は自然と折り合いをつけながら生きていました。
すべてを昔に戻すことはできませんが、その考え方から学べることは多いはずです。

今年一年、どんな時間を過ごしたいのか。
どんな場所で、どんな暮らしをしたいのか。

せとうち不動産では、物件のご紹介だけでなく、そうした「暮らしの背景」にある時間の使い方も含めて、ご相談をお受けしています。

本年も、皆さまの暮らしに寄り添える存在でありたいと思っております。
どうぞ2026年も、よろしくお願いいたします。

◻︎◻︎出典:SEIKO 「不定時法の説明」
     https://museum.seiko.co.jp/knowledge/relation_16/

     GAKKEN 「江戸の自国制度”不定時法”」
     https://www.gakken.jp/kagakusouken/spread/oedo/03/kaisetsu1.html

【本日の一曲】
aron! – table for two

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