2026 01 20

瓦最大手「鶴弥」が東証から去る日

――屋根の主役が変わった時代を振り返る

まさか、そんな日が来るとは思ってもいませんでした。
瓦最大手メーカー「鶴弥」が東証から姿を消す――このニュースを聞いたとき、20年以上前にこの業界に足を踏み入れた頃の景色が、一気に頭の中によみがえりました。

私が建築業界に入った当時、屋根材といえば「瓦」。
それも瓦の中で特に選ばれていたのが、鶴弥の「スーパートライ」でした。
特に四国では圧倒的な存在感で、「瓦=鶴弥」と言っても過言ではないほど。
釉薬のかかった美しい瓦屋根は、街並みの象徴でもあり、安心感そのものだったように思います。

そんな瓦業界のトップ企業が、なぜ今、東証上場廃止という決断に至ったのか。
その背景を、業界の変化と決算データの両面から考えてみたいと思います。


瓦が“当たり前”だった時代

かつて日本の住宅では、屋根は瓦が主流でした。
耐久性が高く、数十年単位で使え、メンテナンス頻度も少ない。
多少重くても、それが「家の重み」「安心感」として受け止められていた時代です。

特に三州瓦は品質が高く、量産体制も整っており、その中心にいたのが鶴弥でした。
J形瓦と呼ばれる伝統的な和瓦は、日本の風景そのものであり、瓦屋根が並ぶ集落は、それだけで「日本らしさ」を感じさせるものでした。


流れが変わったのは「東日本大震災」

個人的に、瓦を取り巻く空気が大きく変わったと感じたのは、2011年の東日本大震災です。

この震災をきっかけに、
「家の一番上にある屋根材は、軽い方が良い」
という考え方が一気に広がりました。

瓦は重い。
耐震性の高い施工をすれば問題はないのですが、イメージとして「重い屋根=地震に弱い」という印象が強く残ってしまったのです。

そこに追い打ちをかけたのが、太陽光発電の普及でした。


太陽光発電と屋根材の相性

震災以降、太陽光発電は一気に普及しました。
そして太陽光発電を効率よく載せるために、屋根の形状そのものが変わっていきます。

・南面に大きく屋根を取れる片流れ屋根
・発電効率を高めるための勾配設定(現在は2寸勾配の商品ラインナップあり)

これらを考えると、瓦よりも金属屋根の方が圧倒的に施工しやすい。
瓦は基本的に急な勾配での施工が前提となるため、設計の自由度が下がってしまいます。

こうして、
ガルバリウム鋼板をはじめとする金属屋根が、一気に主役の座に躍り出ました。


鶴弥という企業の立ち位置

鶴弥は、日本最大の瓦メーカーです。
三大瓦と呼ばれる「三州瓦・石州瓦・淡路瓦」の中でも、三州瓦は約84%のシェアを誇り、その三州瓦の中で約37%を占めるのが鶴弥です。

全国シェアで見ても約3割。
日本の瓦市場を語る上で、鶴弥の業績はそのまま住宅市場の縮図だと言えます。

事業内容を見ても、売上の約86%が瓦関連。
主力はフラットなF形瓦で、時代の変化に合わせた商品開発も進めてきました。

それでも、住宅市場全体の流れには抗えませんでした。


新築住宅の減少と瓦の立ち位置

国内の住宅市場は、長期的に新築件数が減少しています。
人口減少、建築費の高騰、空き家の増加。
地方では新築と中古住宅の価格差が広がり、中古住宅へのシフトも進みつつあります。

リフォーム需要は一定数ありますが、
屋根や瓦は「後回し」にされやすい工事です。

水回りや内装と違い、
・雨漏りしていない
・見た目に問題がない
この状態では、数百万円かかる屋根工事はなかなか選ばれません。

その結果、瓦需要は新築市場に大きく左右される構造のまま、縮小局面に入っていきました。


決算が示す現実

鶴弥の売上は、2016年3月期の約90億円から、2025年3月期には約68億円へと減少。
営業利益も低迷し、赤字と小幅黒字を行き来する状態が続いています。

2025年3月期の営業利益率は2.8%。
原材料費、エネルギーコストの上昇、設備維持費など、製造業として避けられないコスト増が重くのしかかっています。

人員削減や生産効率の改善で一定の成果は出したものの、
マーケット全体が縮小する中で、利益を大きく伸ばすのは容易ではありません。


東証上場廃止という選択

こうした状況の中で決断されたのが、東証からの上場廃止です。

理由として挙げられているのは、
・上場維持コストの削減
・長期的視点での事業運営
・経営の安定化と合理化

鶴弥は長年の蓄積で財務体力があり、資金調達のために上場を続ける必要性は高くありません。
一方で、短期的な業績を求められる上場企業としての立場は、縮小市場に身を置く企業にとって大きな負担になります。

「成長」よりも「維持と最適化」。
その方向へ舵を切るための上場廃止だと考えられます。


瓦がなくなるわけではない

誤解してはいけないのは、
瓦がなくなるわけではない、ということです。

瓦には、
・耐久性
・断熱性
・意匠性
といった、他の屋根材にはない魅力があります。

ただし、それが「万人向け」ではなくなった。
それだけの話です。

これからの瓦は、
・本当に瓦を望む人
・景観や文化を重視する住宅
・長寿命住宅
そうした分野で、確実に選ばれていく存在になるでしょう。


鶴弥の上場廃止が示すもの

鶴弥の事例は、瓦業界だけの話ではありません。
人口減少と建設費高騰という時代の中で、
新築住宅に依存するビジネスモデルが限界を迎えつつある
という現実を、はっきりと示しています。

どの分野が伸び、
どの分野が維持・縮小フェーズに入っているのか。

不動産・建築に関わる私たちは、
これまで以上に冷静に、市場を見極める必要がある時代に入ったのだと思います。

瓦最大手が東証から去る――
それは一つの時代の終わりであり、同時に次の時代の始まりでもあるのかもしれません。

◻︎◻︎出典:楽待 新築の減少で苦境に…瓦業界トップ企業が東証上場廃止に追い込まれた背景
     https://www.rakumachi.jp/news/column/390742

     鶴弥 スーパートライ
     https://www.try110.com/product/kawara/type1/

【本日の一曲】
El Michels Affair – 24 Hr Sports

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