香川の山はなぜ「おむすび山」なのか?
香川を進学で出るまでは、正直なところ意識したこともありませんでした。
しかし県外で暮らし、改めて香川に戻ってくると、ふと気づくことがあります。
「あれ、香川の山って、なんだか独特な形をしていないか?」
遠方から知人が遊びに来たときにも、何度か同じことを言われました。
「昔話に出てくるみたいな山だね」「おにぎりみたいな形だね」と。
香川県に点在する山々は、鋭く切り立ったアルプスのような山でもなく、広大な連なりを見せる山脈でもありません。
丸みを帯びた、どこか親しみのある円錐形。
まさに“おむすび”のような姿をしています。
その代表格が、丸亀市と坂出市にまたがる飯野山。
別名「讃岐富士」と呼ばれ、香川を象徴する山として親しまれています。
しかし、富士山のように山頂が平らなわけでもなく、火山らしい荒々しさがあるわけでもない。
それでも「富士」と呼ばれるほど、整った美しい円錐形をしています。
なぜ香川には、こんな「おむすび山」が多いのでしょうか。
その謎をたどっていくと、驚くほど長い地球の時間と、香川ならではの成り立ちが見えてきます。
香川の「おむすび山」は火山なのか?
一見すると、飯野山は富士山のような火山に見えます。
しかし結論から言うと、現在見えている飯野山は火山ではありません。
香川大学の地質学者・長谷川修一先生によると、
香川の「おむすび山」は、火山そのものではなく、火山活動の“痕跡”が残った山だといいます。
今から約1400万年前。
現在の瀬戸内海周辺では、「瀬戸内火山活動」と呼ばれる激しい火山活動が起こっていました。
愛知県から大分県にかけて、短期間に集中してマグマが噴き出した時代です。
当時の香川でも、地下深くからマグマが上昇し、地表に噴き出しました。
飯野山の中心部は、その**マグマの通り道(火道)**だったと考えられています。
マグマは地中で冷え固まり、非常に硬い安山岩になります。
一方、その周囲には比較的やわらかい花崗岩が広がっていました。
その後、何が起こったか。
削られて残った「芯」の山
香川の山の形を決定づけたのは、火山活動そのものよりも、その後の長い侵食の歴史です。
雨、風、川の流れ。
およそ1350万年以上にわたり、地表は少しずつ削られていきました。
やわらかい花崗岩は削られやすく、長い時間の中で低くなっていきます。
しかし、マグマが固まった安山岩は非常に硬く、簡単には削られません。
結果として、
硬い安山岩が芯のように残り、その周囲が削られて円錐形の山が浮かび上がった。
これが、飯野山をはじめとする香川の「おむすび山」の正体です。
よく例えられるのが「鉛筆」の構造です。
- 花崗岩:鉛筆の木の部分
- 安山岩:鉛筆の芯
外側が削られても、芯がある限り形が残る。
香川のおむすび山は、まさにその状態なのです。
つまり、形は富士山に似ていても、
成り立ちはまったく異なる山だということになります。
屋島はなぜ平らなのか? ― メサとビュート
香川の山には、もう一つ特徴的なタイプがあります。
屋島や五色台、大麻山、象頭山などに見られる、山頂が平らな山です。
これらは「メサ」と呼ばれる地形です。
屋島の場合、
下部は風化した花崗岩(マサ)でできており、
山頂部には、水平に広がる硬い安山岩の溶岩層が蓋のように乗っています。
硬い溶岩が守り、下の地層が削られにくかったため、
結果としてテーブル状の平らな山が残りました。
このメサがさらに侵食され、
山頂にわずかだけ安山岩が残ったものを「ビュート」と呼びます。
三豊市の朝日山などは、その数少ない例です。
一度削られてしまうと、元の形には戻らない。
これもまた、気の遠くなるような時間が作り出した地形です。
島になった「おむすび山」もある
瀬戸内海に浮かぶ島々の中にも、元は「おむすび山」だったものがあります。
東かがわ市の無人島・丸亀島、
五色台沖の大槌島・小槌島などがその代表例です。
もともとは陸続きの山でしたが、
標高の低い部分に海水が入り込み、島として残ったと考えられています。
一方、多くの島は、約300万年前に起きた中央構造線の横ずれ運動によって形成されました。
地殻の動きによって生じた隆起が、後に島となったのです。
瀬戸内海そのものが現在の姿になったのは、さらに後の約1万年前。
香川の風景は、まさに地球史の集積と言えます。
石の文化と香川の暮らし
この火山活動と侵食の歴史は、
香川の文化にも大きな影響を与えてきました。
香川は古くから「石の文化」が根付いた土地です。
- 古代の石器として使われたサヌカイト
- 世界的にも評価の高い庵治石
これらは、すべて瀬戸内火山活動の“恵み”です。
山は単なる風景ではなく、
人の暮らしや文化の土台そのものだったのです。
長谷川先生は、
香川県全体をユネスコ世界ジオパークに登録する構想も語っています。
地質を知ることは、過去の災害を知ることでもあり、
未来の防災につながる学びでもあります。
「まんが日本昔ばなし」と香川の風景
県外の人からよく言われます。
「香川の山って、まんが日本昔ばなしに出てきそうだね」と。
実は偶然ではありません。
『まんが日本昔ばなし』の演出・作画・美術を手がけた童絵作家・池原昭治さんは、香川県高松市の出身です。
幼少期に見ていた讃岐の風景が、無意識のうちに作品世界に反映されていたとしても不思議ではありません。
おむすびのような山、穏やかな里山の連なり。
香川の風景そのものが、日本人の原風景として描かれてきたのです。
おわりに ― 足元の風景を、もう一度
香川の山は、決して派手ではありません。
けれど、1400万年という時間が削り、残した、奇跡の形です。
普段見慣れている風景ほど、その価値には気づきにくいもの。
しかし一度成り立ちを知ると、
何気ない里山の景色が、まったく違って見えてきます。
次に飯野山を見たとき、
「これは火山じゃないんだな」と思い出してみてください。
そして、おむすびのような山々が並ぶ香川の風景が、
どれほど特別なものか、少し誇らしく感じられるかもしれません。
◻︎◻︎出典:朝日新聞 「おむすび山」なぜ多い? 専門家に尋ねた
https://www.asahi.com/articles/ASP4W7GJYP4HPTLC02M.html#:~:text=%E3%80%8C%E3%81%8A%E3%82%80%E3%81%99%E3%81%B3%E5%B1%B1%E3%80%8D%E3%81%AE%E4%B8%AD%E5%BF%83%E9%83%A8,%E3%81%AA%E3%81%A3%E3%81%9F%E3%81%A8%E8%80%83%E3%81%88%E3%82%89%E3%82%8C%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82
【本日の一曲】
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