久米さん さようなら
——予定調和を壊し続けた人へ
「久米さん さようなら」
この言葉を書かなければならない日が来てしまいました。
大好きだった久米宏さんが、亡くなってしまいました。
2020年にラジオ番組『久米宏のラジオなんですけど』が終わり、その後インターネット上で「久米ネット」が始まったものの、ほどなく更新が止まり、やがてサイトそのものが消えてしまった。
何のアナウンスもなく、ただ静かにフェードアウトしていくような形でした。
「船に乗るから少しお休みします」
(たしか)そんな言葉を最後に、久米さんはメディアの前から姿を消しました。
ずっと、待っていました。
またひょっこり戻ってきてくれるんじゃないかと。
どこかで毒の効いた一言を投げてくれるんじゃないかと。
でも、嫌な予感は、残念ながら当たってしまいました。
次に届いた“連絡”は、復帰の知らせではなく、訃報でした。
小学生の頃、布団の中で聴いたあの音楽
私の久米さんとの最初の記憶は、小学生の頃にさかのぼります。
21時には布団に入らされていた時代。
でも、なかなか寝付けない夜がありました。
そんなとき、22時を過ぎた頃に、居間のテレビから微かに流れてくる音がありました。
あの『ニュースステーション』のオープニング曲です。
「ニュース番組」という言葉から想像する、堅くて難しいものとはまるで違う。
どこか軽やかで、洒落ていて、ちょっと不思議な雰囲気の音楽。
画面を直接見ていなくても、
「あ、ニュースステーションが始まった」
と分かる、特別な存在感がありました。
ニュース番組なのに、どこかバラエティ番組のようで。
でも決してふざけているわけではなく、むしろものすごく真剣で。
子どもだった私にも、「世の中には、こんな伝え方があるんだ」と感じさせる番組でした。
子どもにも分かる「ニュース」という衝撃
久米宏という人は、「分かりやすく伝える」ことを、決して手を抜かずにやり切る人でした。
難しい言葉を並べない。
権威に寄りかからない。
専門家の話も、そのまま垂れ流さない。
「それって、結局どういうことなんですか?」
「つまり、こういう話ですよね?」
視聴者が心の中で抱くであろう疑問を、遠慮なく代弁する。
しかも、それを少し意地悪で、皮肉の効いた言い方で投げる。
その姿は、当時の“お行儀の良いニュース番組”の中では、明らかに異質でした。
予定調和を、徹底的に嫌う人。
空気を読むより、空気を壊すことを選ぶ人。
知的で、背が高くて、洒落ていて、
意地悪で、皮肉屋で、でもなぜか憎めなくて。
何より、常に本気でした。
「ラジオなんですけど」が教えてくれた対話の面白さ
私にとって、久米さんの“完成形”は、テレビよりもラジオにありました。
『久米宏のラジオなんですけど』。
この番組の対談が、とにかく好きでした。
政治家、学者、作家、芸人、音楽家、時には全くジャンル外の人まで。
相手の肩書きには興味がない。
興味があるのは、「この人は何を考えているのか」という一点だけ。
予定された質問をなぞるのではなく、
相手の言葉に引っかかり、そこを執拗に掘り下げていく。
ときには話が脱線し、ときには沈黙が流れ、
ときには少し不機嫌な空気すら漂う。
でも、それがいい。
あれほど「生身の会話」を感じられる対談番組を、私は他に知りません。
毎週、本当に楽しみにしていました。
ラジオが終わったあと、代わりになる対談番組を、他のメディアで探しました。
でも、結局、いまだに見つかっていません。
消えた声、残った音源
ラジオが終わり、久米ネットも止まり、
情報がまったく出てこなくなった頃。
正直、体調のことは想像していました。
あまりにも、静かすぎたから。
それでも、どこかで「また戻ってくるはずだ」と思い続けていました。
当時のラジオの音声データが、幸いにも結構残っています。
今でも、時々聴き返します。
声は、そこにある。
考え方も、笑い方も、皮肉も、すべてそこに残っている。
でも、新しい言葉は、もう増えない。
その事実を、今回の訃報で突きつけられました。
乾杯の切り抜きとともに
※ちなみに、いまだに私の実家の部屋には、
『ニュースステーション』最終回での、ビールで乾杯するシーンの新聞記事の切り抜きが飾られています。
あの場面は、象徴的でした。
「真面目にふざける」
「ふざけながら、本質を突く」
久米宏という人の、すべてが詰まっていた気がします。
ありがとう、久米さん
かなり、悲しいです。
でも同時に、こんなにもたくさんの言葉と記憶を残してくれたことに、感謝しています。
これからは、いろんな時代の久米さんの映像や音源に触れながら、
静かに、個人的に、追悼していこうと思います。
予定調和を壊し続けた人へ。
問いを投げ続けた人へ。
久米さん、さようなら。
そして、本当にありがとうございました。
◻︎◻︎出典:久米宏 ラジオなんですけど
https://www.tbs.co.jp/radio/kume954/pod/index-j.html
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