丹下健三建築 旧香川県立体育館、ついに解体へ
本日から、ついに丹下健三建築の名作 「旧香川県立体育館」 の解体工事が始まります。
香川県民にとっては「船の体育館」という愛称のほうが、むしろ馴染みがあるかもしれません。4月10日午前8時から植栽撤去に着手し、工期は2027年9月までとされています。
この建物の解体については、ここ最近かなりニュースでも取り上げられてきました。
老朽化した建物だから、安全性を優先して解体するべきなのか。
それとも、世界的建築家・丹下健三が手がけた貴重な近現代建築として、保存・再生の道を探るべきなのか。
どちらの考え方にも十分理解できる部分があり、本当に難しい問題だったと思います。
私自身、この体育館の横を車で通るたびに、
「なんとも変わった形の建物だな」
といつも目を奪われていました。
大きく反り返った屋根は、まるで海に浮かぶ和船のよう。
高松の街なかに突然現れるその独特なシルエットは、見慣れた景色の一部でありながら、どこか非日常でもありました。
ただ、正直に言えば、結局一度も中に入ることはありませんでした。
だからこそ今回の解体は、思い出が深いというより、
「ずっとそこにあると思っていた風景がなくなる」
そんな感覚に近いものがあります。
「古いから壊す」は本当に正解なのか
旧香川県立体育館は、2014年に老朽化で閉館。
その後、耐震性の問題や地震時の倒壊リスクが指摘され、県は2023年に解体方針を決定しました。
行政として考えれば、この判断はとても理解できます。
公共施設は安全性が最優先。
万が一、災害時に倒壊して周辺住民や通行人に被害が出れば、その責任は非常に大きい。
しかも今回の建物は、アスベスト除去や地盤への配慮など、通常の解体以上に慎重な対応が必要とされています。
建築や不動産に携わる立場から見ても、
「使われていない大規模老朽建築を維持するコスト」
は決して軽いものではありません。
保存するにも、補強・改修・用途転換・運営主体・収益性。
考えないといけないことは山ほどあります。
だから単純に
「壊すなんてもったいない」
だけでは済まないのも現実です。
それでも失われる文化的価値は大きい
一方で、この建物がただの古い体育館ではないことも事実です。
設計は、世界的建築家 丹下健三。
東京・国立代々木競技場へとつながる造形思想の流れを感じる作品であり、日本の戦後モダニズム建築を語る上でも極めて重要な存在です。
あの大胆に反り返ったフォルムは、機能性だけでなく、
「建築そのものが都市の風景をつくる」
というメッセージを持っていたように思います。
最近、日本各地で戦後の優れた近現代建築が次々と姿を消しています。
老朽化。
維持費。
耐震性。
用途不足。
理由はどれも現実的です。
ただ、そのたびに感じるのは、
日本は近現代建築を文化資産として残す議論がまだ成熟していない
ということです。
寺社仏閣や古民家の保存には価値を見出しやすい一方で、戦後建築になると急に評価が難しくなる。
でも本来、それらもまた時代の価値観や技術、都市思想を映した「歴史」そのものです。
保存か解体かではなく「活かし方」の議論
今回、民間団体による再生提案も話題になりました。
自己資金で買い取り、公費を使わずに保存・再生する案まで出ていましたが、県は安全性を理由に受け入れませんでした。現在は住民訴訟も継続中です。
この流れを見ていて感じたのは、
本当に必要なのは 「残すか壊すか」ではなく「どう活かすか」 の議論だったのではないか、ということです。
建物は残すだけでは維持できません。
使われてこそ価値が生まれる。
ホテル、文化施設、イベントホール、地域交流拠点。
民間活用のアイデアは十分可能性があったはずです。
実際、不動産でもそうですが、
古い建物は用途を変えることで再び価値を持つことがあります。
住宅が店舗になる。
倉庫がカフェになる。
古民家が宿になる。
建築の価値は、築年数だけでは決まりません。
誰がどう使うかで、未来は大きく変わります。
景色が変わるということ
個人的には、毎回この前を車で通るたびに
「なんでこんな形にしたんだろう」
と思っていました。
でも、その“違和感”こそが名建築だったのかもしれません。
見慣れた街並みの中に、少しだけ考えさせる風景がある。
それが都市の文化だと思います。
今回、その景色がなくなる。
高松の風景がまた一つ変わる。
建築とは単なる箱ではなく、
人の記憶や街の輪郭そのものなんだと、改めて感じます。
入ったことはなくても、見続けてきた建物には感情が宿る。
それは家でも、店舗でも、公共建築でも同じです。
難しいからこそ考え続けたい
今回の旧香川県立体育館の解体は、単なる一施設の取り壊しではありません。
安全性
財政
文化
景観
地域資産
未来への継承
すべてが重なった、とても難しいテーマです。
だからこそ、どちらが正しいと簡単には言えません。
解体は現実的に必要だったのかもしれない。
でも同時に、こうした建築を未来にどう残すかを考えるきっかけにもなったはずです。
僕にとっては、車で横を通るたびに見ていた
あの少し不思議な「船の形」が、街の記憶として残り続けると思います。
建物はなくなっても、
その価値を考えた時間そのものは、きっと地域に残っていく。
そんなふうに感じています。
◻︎◻︎美術手帖 丹下建築「旧香川県立体育館」(船の体育館)、香川県が解体着手へ
https://bijutsutecho.com/magazine/news/headline/32363
【本日の一曲】
Tyla – Water
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