【物件漂流記】松尾スズキさん、60代で家を買う 「ようやく東京をねじ伏せた」という言葉が面白い
家を買う理由って、本当に人それぞれです。
「結婚したから」
「子どもが生まれて、子ども部屋が必要になったから」
「今の家が手狭になったから」
「定年を迎えて、これからの暮らしを考えたから」
「賃貸ではなく、自分の家が欲しくなったから」
……などなど。
不動産の仕事をしていると、これまでたくさんの「家を買う理由」を聞いてきました。
そして今回、ちょっと面白い「家を買った理由」に出会いました。
それが、劇作家・俳優・演出家などとして活躍する松尾スズキさんの話です。
松尾スズキさんが「家」を本にした
松尾スズキさんといえば、劇団「大人計画」の主宰者。
阿部サダヲさん、宮藤官九郎さん、荒川良々さん、皆川猿時さん、平岩紙さん、星野源さんなど、現在も第一線で活躍する俳優・作家が所属・参加している劇団です。
そんな松尾さんが、これまでの引っ越しや家探しを綴った本が『物件漂流記』です。
松尾さんは上京後に何度も引っ越しを繰り返し、最終的に60代で一戸建てを購入。
しかも、ローンを組まずに現金で購入したそうです。
「ようやく東京をねじ伏せた」
この話で、個人的にものすごく印象に残ったのが、
「ようやく東京をねじ伏せた」
というような松尾さんの感覚。
これ、すごく面白い表現だなと思いました。
東京で暮らして、何度も引っ越して、賃貸住宅に住んで。
そして60代になって、自分の家を買う。
「東京に住んでいる」のではなく、
「東京に自分の居場所をつくった」
という感覚なのかもしれません。
もちろん、これは松尾さん自身の感覚なので、私が勝手に解釈している部分もあります。
でも、この言葉には妙にリアリティがあります。
家を買うということは、単純に「建物と土地を買う」というだけではないんですよね。
家を買うと、暮らし方が変わる
松尾さんの場合、これまでの引っ越しには仕事との関係も大きかったそうです。
劇場が仕事場になるため、劇場からの距離や街の雰囲気も住む場所を選ぶ重要な条件だったとのこと。
一方で、最終的な住まいを選ぶ際には、地盤やハザードマップなども確認。
3.11を経験したことから地盤の固さを気にしたり、浸水リスクを避けたりと、年齢を重ねたことで「住みたい家」の条件も変わっていったそうです。
これも、家探しではよくあることです。
20代のときに欲しかった家と、40代、60代になって欲しい家は違う。
若いときは「駅から近い」「おしゃれ」「便利」が重要だったのに、歳を重ねると「病院が近い」「買い物がしやすい」「災害リスクが低い」「階段が少ない」などが重要になってくる。
つまり、家が変わるというより、自分の人生が変わることで、家に求めるものも変わっていくんですよね。

「家を買う理由」は、誰かと同じじゃなくていい
松尾さんの話を聞いて思ったのは、
家を買うタイミングに正解なんてない
ということ。
結婚や子どもの誕生をきっかけに購入する人もいれば、定年後に購入する人もいる。
ずっと賃貸で暮らして、最後に「やっぱり自分の家が欲しい」と思う人もいる。
そして、何度も引っ越しをした末に、60代でようやく「ここだ」と思える家にたどり着く人もいる。
松尾さんは60代で家を購入しましたが、これは決して「60代だから家を買うべき」という話ではありません。
大切なのは、その人にとって、そのタイミングで、その家が必要なのかということ。
不動産屋として家探しのお手伝いをしていると、そこが一番面白いところでもあります。
「なぜ家を買うんですか?」
と聞いたときに返ってくる答えは、本当に千差万別。
その人のこれまでの人生と、これからの暮らしが、その一言に詰まっていることがあります。
『物件漂流記』というタイトルのとおり、家を探すことは、もしかすると「自分がどこで、どう暮らしたいのか」を探す旅なのかもしれません。
それにしても……
久しぶりに松尾スズキさんのお顔を見ると、
「松尾さん、歳とったなぁ……」
と思ってしまいました(笑)。
いや、そりゃそうです。
私が大人計画の舞台を最後に観てから、もう20数年。
四半世紀です。
そりゃ、私も歳とります(笑)。
でも、そんな時間を経て「自分の家」を手に入れた松尾さんの話。
不動産屋としても、なかなか興味深い「物件漂流記」でした。
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