2025 07 05

スマホは苦手でも、信頼は抜群――年配の職人さんたち

先日、建築現場で年配の職人さんと打ち合わせをする機会がありました。

この業界に身を置いていると、職人さんと話す場面は日常茶飯事なのですが、ふとした瞬間に「ああ、この人たちの持っているものって、本当にすごいな」と改めて感じることがあります。今回はそんな“現場の宝”ともいえる、年配の職人さんたちの話を少しだけさせてください。


建築業界には「個人事業主」がとにかく多い

建築業界において、現場で活躍している職人さんの多くは、実は会社員ではありません。どこかの工務店やゼネコンに雇われているわけではなく、**個人で仕事を受けている「一人親方」**と呼ばれる方々です。

もちろん、企業に属している職人さんもいますが、他業種に比べると“フリーランス”とも言える立場の人が圧倒的に多い。これは、建築業界の文化的な背景もあるのだと思います。腕一本でやってきた人、親方に弟子入りして修行してきた人、自分の看板で仕事を請け負っている人……その姿は、どこか職人の世界らしい潔さと誇りに満ちています。


デジタル時代とちょっとずれた“職人ワールド”

そんな職人さんたちの中でも、年配の方々には独特の味わい深さがあります。たとえば、スマホは持っていても、LINEもメールも使わず、連絡手段はもっぱら電話。それも、「◯日◯時に◯◯で集合な!」と口頭で済ませてしまう、というスタイルが今も現役だったりします。

こちらとしては「念のため確認のメッセージ送っておこうかな……」とヒヤヒヤすることもありますが(笑)、当の本人は平然としていて、ちゃんと時間通りに現場に現れるから不思議です。

スマホの操作には疎いかもしれません。でも、長年の経験と“職人の勘”はまったく色あせていません


彼らが信頼される理由

なぜ、こんなにも年配の職人さんたちが信頼されているのか。

それは、彼らが**「原理原則」を体に叩き込んでいるからです。現代のように、マニュアルやYouTube、AIなどでなんでも調べられる時代とは違い、彼らはすべて「見て覚え」「やって覚え」**の世界で育ってきました。

今のように便利な道具が揃っていたわけではありません。それでも、寸分の狂いなく納める技術を身につけている。

「必要なことを、必要なだけ、きちんとやる」

そこに、無駄な装飾や気取りはありません。ただただ、**まっすぐな“いい仕事”**があるのです。


合理主義だけでは生まれない現場の力

もちろん、今の時代においては効率化も大切です。現場管理アプリや3D設計、オンライン打ち合わせなど、便利なツールを使いこなせることが現場の円滑な進行につながることもあります。

ですが、それだけで現場は動きません。寸法通りにカットされた材料も、ミリ単位でズレる現場の“ゆらぎ”に対応できなければ収まりません。そこには、数字では測れない**「現場の感覚」**というものが確かにあるのです。

年配の職人さんたちは、それを熟知しています。図面の先にある「実際の空気感」を読む力、たとえば「今日はちょっと湿気が多いから、乾燥時間を長めに見よう」といった判断を、自然とやってのける。

こうした“読み”や“間”は、マニュアルでは伝わりません。長年の積み重ねと、現場での失敗や工夫があってこそ、身につくものです。


スマホは苦手でも、人として魅力的

もちろん、年配の職人さんの中には、「現場主義すぎて、若い人とコミュニケーションが取りづらい」という場面も時にはあります。ですが、それでも一緒に仕事をしていると、**“人としての魅力”**を感じる瞬間が本当に多いのです。

たとえば、後輩の若い職人さんにさりげなくアドバイスをしていたり、誰かが困っているときには道具を貸してくれたり、材料の無駄を見抜いて手早く修正していたり。こういう“地味だけどすごい”ことを、さらっとやってのける。

何より、「仕事を楽しんでいる」という空気をまとっている方が多い気がします。朝から黙々と作業して、ひと段落ついたときの缶コーヒーの一口。その一瞬にこそ、職人としての喜びが詰まっているのかもしれません。


この人たちと一緒に仕事をしたい

年配の職人さんたちは、ある意味で“時代に逆行している”存在かもしれません。でも、その逆行こそが、建築という仕事の根っこを支えてくれているような気がします。

スマホは苦手でも、現場では誰よりも頼れる存在。

現場で交わす「まあまあ、なんとかなるわな」のひと言に、どれだけの経験と信頼が詰まっていることか。

だからこそ、これからの若い世代にも、彼らの技術や感覚を知ってほしいし、一緒に仕事をして「学べる現場」がたくさん残っていってほしいと思います。

建築は、デジタルだけでは作れない。人の手と、経験と、感覚があってこそ。

今日も、どこかの現場で、スマホには不慣れな“愛すべき職人さん”たちが、確かな技で家を作り上げてくれています。

【本日の一曲】
Lewis OfMan / Seoul Disco Night