事故物件に「科学」で挑む時代へ?——それでもやっぱり、ちょっと怖い?

みなさんは「事故物件」と聞いて、どんなイメージを持ちますか?
──殺人、自殺、孤独死…。
──夜な夜な“何か”が出るとか、気味の悪い雰囲気とか…。
そんな、どこかホラー映画のようなイメージを抱く人も少なくないはず。
でも、最近ではそんな事故物件が「割安物件」として、若い人や海外投資家から注目を集めているんです。しかも、その背景には科学的なアプローチで“おばけ”を検証する専門家の存在があるというから、これはもう無視できない話。
今回は、「事故物件は怖いだけじゃない」という、ちょっと不思議で現代的な不動産の話を紹介します。
幽霊がいるか、科学で調べる時代に
千葉県市川市のある一軒家。この物件は過去に高齢女性の自殺や孤独死があり、いわゆる“事故物件”に該当します。
そんな家に、夜通しビデオカメラや赤外線センサー、電磁波測定器などを設置して“心霊調査”をするのが、不動産コンサルタントの児玉和俊さん。
なんと、この家だけでも20回以上、深夜から朝まで滞在し、機器の数値を1時間ごとに記録しているそうです。
そして異常な電磁波や温度の変化がなければ、「心霊現象なし」とする**“証明書”**を発行。まるでお化けに科学で挑む「不動産版ゴーストバスター」といったところです。
それでも、気持ちの問題は拭えない?
でも、「幽霊がいないって言われても…やっぱりちょっと怖い」と思う人も多いのが正直なところ。
実際、24歳の会社員・嶋村さんは「割安でも、そんな過去がある家はやっぱり避けたい」と語っています。
心霊現象があるかどうか、というよりも、“人が亡くなった場所に住む”という心理的抵抗が根深いのです。
これは、日本の文化や宗教観とも深く関わっています。特に神道の考え方では、無念を抱えて亡くなった魂はその場にとどまり、現世に干渉してくると信じられてきました。つまり、事故物件=“霊的に汚れている”という考えが、どこかにあるわけです。
事故物件は「割安」で「高利回り」
では、なぜそんな事故物件が人気を集めているのでしょうか。
ひとつは、不動産価格の高騰。特に都心のマンションは、70㎡で1億円を超えるケースも出てきており、普通の人にはなかなか手が出せない水準になっています。
そんな中、事故物件は市場価格より20%〜最大80%も安く売られることも。孤独死レベルなら値引きは20%ほどで済むことも多く、「住めるならお得」と考える若い人や投資家が出てきたのです。
しかも、リフォーム後の投資利回りは8.4%にも上る例もあり、これは都心ワンルームの平均利回り(約3.5%)の倍以上。
「自分が住むわけじゃない」「3年経てば告知義務もなくなる」と割り切れば、投資用としてはかなり魅力的に見えてくるのも納得です。
高齢化と孤独死の現実
そもそも、なぜ事故物件が増えているのか。
背景にあるのは、日本社会の急速な高齢化と孤立化です。
警察庁の調査によると、2024年、死亡から8日以上誰にも発見されなかった孤独死は約2万件超。そして、65歳以上の単身世帯は、すでに全体の14%。20年後には5世帯に1つが“高齢一人暮らし”になると予測されています。
こうした現実を前に、事故物件が「特殊な存在」ではなくなりつつあるのです。
国のガイドラインもできました
2021年には国も動きました。「事故物件に関するガイドライン」を策定し、
- 自然死や老衰は告知不要
- 自殺や他殺、長期間発見されなかった死は、3年以内なら告知義務あり
というルールを明確化しました。
これにより、「事故物件」というラベルに対する理解も進み、「3年経っていれば気にしない」という買主・借主も少しずつ増えてきています。
今後は、ますます“事故物件”が増える?
実は、事故物件の数は今後さらに増えていくと見られています。
そんな中、児玉さんのように「心霊調査+科学+証明書」という取り組みを始める不動産事業者も増え始めました。もちろん全員が幽霊を信じているわけではない。でも、「不安を払拭するひとつの方法」として、こうしたサービスが現代的ニーズに応えているのです。
住まいは“数字”だけじゃ決まらない
割安で利回りも高く、今後の成長市場としても注目される事故物件市場。でも、やっぱり“気持ちの問題”はそう簡単に割り切れません。
不動産の価値は「価格」や「利回り」だけでなく、住む人の「安心感」や「納得感」も大切。
これからの時代、事故物件との付き合い方も、「科学的・現実的」な視点と「心情的・文化的」な感覚のちょうどいいバランスが求められているのかもしれません。
■■出典:ロイター 2025年6月30日 アングル:日本の「事故物件」、海外投資家も注目 不動産高騰で割安感 (Mariko Katsumura)
https://jp.reuters.com/economy/industry/SOHYJVG4WNMZLM5RA3MJV3AFBU-2025-06-30/
【本日の一曲】
Zazen Boys / サイボーグのオバケ