夏休み特集⑤ なぜ、人間が食べる肉は草食動物のものなのか?

夏休み、家族や友人とBBQや焼肉を楽しむ機会も多いですよね。そんなとき、ふとこんな疑問を持ったことはありませんか?
「人間が普段食べるお肉って、牛・豚・鶏ばかり…でも、ライオンやトラのお肉は食べないのはなぜ?」
実は、この疑問には生態学的・文化的・経済的な理由がたくさん隠れています。今回は、「なぜ人間は草食動物の肉を中心に食べるのか?」を徹底解説します。
◆ そもそも、人間が食べる肉の代表格は?
まず、人間が日常的に食べる肉を挙げてみましょう。
- 牛肉(ウシ)
- 豚肉(ブタ)
- 鶏肉(ニワトリ)
- 羊肉(ヒツジ・ラム)
- 山羊肉(ヤギ)
共通点はすべて「草食動物」または「雑食寄りでも草食性が強い動物」ということ。では、なぜ肉食動物や猛獣の肉を食べる習慣はほとんどないのでしょうか?
◆ 理由その① 食料効率の問題
一番大きな理由は、**「エネルギー効率」**です。
生態学では、食物連鎖において上位に行くほどエネルギー効率が悪くなるとされています。
例えば、草を食べるウシがいて、そのウシを食べるライオンがいたとしましょう。草に含まれるエネルギーを100とすると、ウシが利用できるのはそのうち10程度。さらにライオンがウシを食べても、そのうちの1程度しか利用できません。
つまり、肉食動物の肉を食べるには、膨大な草と草食動物が必要になるのです。
人間がライオンやトラを食べるために育てるとしたら、コストは牛の何倍もかかることになります。食糧生産としては非効率すぎるため、自然と草食動物中心の畜産が発達したのです。
◆ 理由その② 肉の質と味の問題
次に、**「美味しさ」**という観点。
肉食動物の筋肉は、狩りのために発達しており、非常に固くてクセがあります。
一方、草食動物の筋肉は比較的柔らかく、脂肪の入り方もバランスが良いので、旨みが強くて食べやすいのです。
また、肉食動物は脂肪が少ないため、肉がパサつきやすく、私たちが好むジューシーさに欠けます。
さらに、肉食動物の肉は匂いが強烈なことが多く、これは食べる餌(肉)由来の成分が関係しています。
◆ 理由その③ 病気や寄生虫のリスク
肉食動物は、生肉を食べる習性から寄生虫や感染症のリスクが高いとされています。
そのため、肉食動物を食べると、人間にも病気が伝染する危険があるのです。
実際、野生の動物を食べる「ブッシュミート文化」がある地域では、感染症が問題になっています。例えば、アフリカで野生動物を食べることが原因で発生する病気が報告されています。
◆ 歴史的・文化的背景
では、人類の歴史を振り返るとどうでしょうか?
古代の人間は狩猟採集を行っていましたが、その対象はシカやウシなどの草食動物が中心でした。理由はシンプルで、「捕まえやすい」ことと「群れでいるため数が多い」こと。
一方、ライオンやトラなどの肉食動物は個体数が少なく、狩るリスクも非常に高かったため、食料としては現実的ではなかったのです。
また、宗教や文化の中で「肉食動物を食べる」ことがタブーとされてきた例もあります。
例えば、イスラム教やユダヤ教では食べて良い動物(ハラールやコーシャ)の条件に「草食であること」が含まれています。
◆ 栄養面から見ても草食動物の方が有利
肉食動物の肉には脂肪が少なく、高たんぱくではあるものの、ビタミンや必須脂肪酸のバランスが悪いことが多いのです。
草食動物は草を通じてビタミンやミネラルを蓄えるため、人間にとっても栄養価が高い肉になります。
また、草食動物の脂肪(特に牛や羊)は、風味が良く、エネルギー源としても優れています。
◆ 例外:肉食動物を食べる文化はある?
「でも、全く食べないわけじゃないのでは?」
そう思った方、鋭いです。実は、世界には一部、肉食動物を食べる文化も存在します。
- クマ肉(雑食寄り):北海道や北米で食べられることがあります。
- ワニ肉:肉食ですが、魚や小動物を食べるため、比較的クセが少ない。
- ネコ科やイヌ科:中国やベトナムなど一部の地域で歴史的に食文化がありましたが、現在は減少。
ただし、これらは非常に特殊なケースで、一般的な食肉生産の対象にはなっていません。
◆ まとめ:効率と安全性がカギ
人間が草食動物の肉を主に食べる理由をまとめると…
- エネルギー効率が良く、育てやすい
- 肉の質と味が良い
- 病気や寄生虫のリスクが低い
- 文化的・宗教的背景がある
こうした理由から、人間は昔から草食動物を中心に食べ、現代の畜産もその流れを踏襲しています。
肉食動物の肉を食べることが非効率で危険だからこそ、私たちは牛・豚・鶏といった草食・雑食系動物を選んできたのです。
【本日の一曲】
大貫妙子 / Cahier 1