2025 09 26

既存建物を活用した事業企画の魅力と課題

―実際に既存建物をリノベーションした”せとうち不動産”事務所です―

はじめに

日本では、少子高齢化・人口減少に伴い、全国的に空き家や既存建物が増え続けています。従来は「古くなったら建て替える」という考え方が主流でしたが、ここ数年は「今あるものを活かす」という発想が注目されてきました。SDGsや地球環境への配慮、そしてコスト意識の高まりもあいまって、既存建物の活用は単なる節約策ではなく、新しい不動産投資・事業企画の選択肢となっています。

本記事では、既存建物を活用する事業企画のメリット、そして拡大を阻む要因について詳しく解説し、これからの不動産戦略を考えるヒントを提供します。


既存建物活用のメリット

1. 建設コストが抑えられるため資金回収が早い

新築に比べて既存建物の改修・リノベーションは、工事費用を大幅に抑えることが可能です。新築であれば、土地購入・設計・建設・各種手続きなど多額の投資が必要になりますが、既存建物の場合は「使える構造」を活かすため、基礎・骨組みなどの再利用でコストが減ります。
たとえば、投資額が年間純収益(賃料-経費)の約5年分以下であれば、短期間で投資回収ができる計算になります。これは事業上大きな魅力です。

2. 市場ニーズに合致していれば新築並みの収益が可能

「古い建物だから収益性が低い」とは一概に言えません。需要の高い立地や、時代のニーズに合った改修(たとえばオフィスからコワーキングスペース、住宅から民泊など)を行えば、新築とほぼ同等の賃料設定も実現可能です。
収益価格=純収益/還元利回りという評価方法を踏まえると、しっかりとした運営計画があれば、改修後の資産価値を高められることがわかります。

3. 資産価値の向上が期待できる

古い建物でも、外観や設備を現代の水準に合わせて改修することで市場価値を高められます。特に耐震性・断熱性・省エネ性の改善は、長期的な資産価値維持につながります。

4. 賃料減収期間が短い

建て替えを行う場合、解体から建設、竣工までの期間は収益がゼロになります。対して改修工事は工期が比較的短いため、賃料の減収期間を最小限に抑えられるのも大きな利点です。

5. 入居者を決めてから工事に着手できる柔軟性

新築では竣工後にテナント募集を行うケースが一般的ですが、既存建物の改修では「入居者の要望を踏まえて改装プランを決定する」ことも可能です。入居者のニーズを事前に把握できれば、空室リスクを減らし、安定した収益確保につなげられます。

6. 環境負荷の軽減・SDGsへの貢献

建て替えは大量の建築資材や廃棄物を生み出しますが、既存建物の活用は資源消費を抑え、地球温暖化防止にも寄与します。企業としての社会的評価向上にもつながるでしょう。

7. 節税効果(所得税・相続税)

改修工事を行うことで、減価償却の対象額が増え、所得税の節税効果が期待できます。また、改修工事により相続税評価額が増加するものの、工事にかかった費用の方が大きければ、その差額分が相続税評価額の減少につながるため、結果的に相続税の節税にも寄与します。


既存建物活用の拡大を阻む要因

既存建物の活用には多くのメリットがある一方で、いくつかのハードルも存在します。

1. 融資面の課題

既存建物に対する金融機関の融資姿勢は、新築に比べて厳しいことがあります。建物の老朽度や耐震性などが不明確だと担保評価が低くなり、十分な融資が受けられない場合があります。
そのため、改修前に詳細な建物診断や耐震診断を行い、計画性をアピールすることが重要です。

2. 市場評価の問題

中古物件は「土地価格-解体費」という評価方法が一般的で、リフォームや改修をしても価格が十分に反映されにくいという現状があります。改修によって価値が上がることを、第三者評価機関などが適切に認める仕組みづくりが求められます。

3. 建物の質の問題

築年数が古い建物は、耐震性や断熱性、配管や電気系統など、現代基準に満たない部分が多々あります。そのため改修費用が思った以上にかかり、結果的に新築より割高になるケースもあります。
特にアスベストの有無や、法規制の変更(建築基準法、消防法など)に注意が必要です。

4. ユーザー意識の問題

「新築志向」が根強い日本では、「古い=価値が低い」という固定観念があります。しかし近年、リノベーション物件やレトロ建築が注目されるなど、価値観の多様化が進んでいます。こうしたユーザー意識の変化を的確にとらえることが重要です。


既存建物活用を成功させるためのポイント

ここまでの内容を踏まえ、既存建物活用を成功させるためには以下のようなポイントが重要です。

  • 事前調査の徹底:建物診断、耐震診断、インフラ調査をしっかり行い、改修コストを正確に把握する
  • 市場ニーズの把握:テナントや入居者の要望を調査し、それに合わせた改修プランを策定する
  • デザイン・ブランディング:単なるリフォームではなく、デザイン性や使いやすさを重視することで付加価値を高める
  • 金融機関や行政との連携:補助金や低利融資の活用を検討する
  • 地域特性を活かす:地域の文化や歴史を反映したリノベーションは、話題性や差別化につながる

まとめ

既存建物の活用は、単に「安く済ませる」ための手段ではなく、持続可能な不動産経営への新しいアプローチです。新築に比べて資金回収が早く、環境にもやさしく、相続税や所得税などの節税効果も見込めます。一方で、融資や評価、ユーザー意識などの課題を乗り越えるためには、専門家との連携や丁寧な企画が欠かせません。

せとうち不動産でも、既存建物の活用やリノベーションに関するご相談を承っています。単なるリフォームだけでなく、資産価値を高める戦略的な活用方法を一緒に考え、事業として成功させるお手伝いをしています。

これからの不動産ビジネスは「スクラップ&ビルド」から「リユース&バリューアップ」へ。既存建物を活用することは、環境保護・資産形成・地域活性化の観点からも、大きな可能性を秘めています。

【本日の一曲】
Deee-Lite – Groove is in the Heart