JR観音寺駅を中心としたまちづくり

香川県西部に位置する観音寺市。その玄関口であるJR観音寺駅は、私たち市民にとって長く親しまれてきた存在です。駅舎の屋根に掲げられた三連アーチのモニュメントは、「日本百名橋」に選ばれている市内の『三架橋』をモチーフにしており、昭和の面影を色濃く残す駅舎とともに街のシンボルとなってきました。子どもの頃から変わらない駅の風景は、どこか懐かしさを覚えさせますが、一方で時代の変化に対応した利便性や活気をどう取り戻すかという課題も抱えてきました。
そんな中、観音寺市は「JR観音寺駅を中心としたまちづくりプロジェクト」のロードマップを策定しました。駅舎改築や駅前広場の再整備、南北エリアを結ぶアクセス改善など、街全体の再活性化を目指す取り組みがいよいよ動き出そうとしています。
観音寺駅とまちの現状
観音寺駅は、西讃地区で唯一すべての特急列車が停車する主要駅です。高松方面へはおよそ1時間に2~3本、松山方面へも1~2本の普通列車が発着し、通勤・通学だけでなくビジネスや観光においても重要な交通結節点となっています。
しかし駅周辺を見渡すと、課題がいくつも浮かび上がります。北側の中心市街地は、市民会館や商店街を拠点にイベントを開催し、にぎわいを生み出す努力が続けられてきましたが、定住人口や店舗数の減少が目立ちます。南側は大型スーパーや公共施設が集まり住宅地も増えている一方、駅へのアクセスは跨線橋のバリアフリー未対応や動線の不便さが障壁となり、北側との一体的な発展を妨げています。
駅という「まちの顔」が必ずしも現代のニーズに合っていない――この現状が、市がプロジェクトを立ち上げる大きな契機となりました。
ロードマップの柱となる施策
観音寺市が描くまちづくりロードマップでは、駅舎や駅前空間を単なる交通拠点として整備するのではなく、地域のシンボル・市民の交流拠点として機能させることを目指しています。
1. 駅舎の改築
「中心拠点にふさわしい玄関口」を実現するため、最も効果的な施策として掲げられているのが駅舎改築です。市民や有識者の意見を取り入れながら、JR四国との協議を重ねて駅舎の方式を検討していく予定です。バリアフリー化はもちろん、南北をつなぐ自由通路の整備も視野に入れ、地域全体の動線を改善していきます。
2. 駅前広場とロータリーの再整備
現在、駅北側のロータリーは複数の出入口が入り組み、タクシーやバス、一般車両が混在して渋滞や安全面で課題を抱えています。今後は一方通行化や送迎車専用エリアの設置、歩行者専用スペースの確保などを進め、誰もが安心して利用できる駅前空間に生まれ変わります。
3. コワーキングスペース「COCO-BEN/観音寺」
2025年度には駅舎内に自習室・コワーキングスペース「COCO-BEN/観音寺」がオープンしました。これは旧旅行代理店の跡地を活用したもので、学生やビジネスパーソンにとって学びや仕事の拠点となります。駅という日常的に利用する場所にこうした機能を組み込むことで、まちに新しい交流が生まれることが期待されています。
4. 市民参加型のワークショップ
ハード整備に加え、市民が主体的にまちづくりを考える場としてワークショップも開催予定です。まちを利用するのは市民自身。アイデアを出し合い、共有するプロセスを重視することで、単なる「施設の整備」ではなく「市民のためのまちづくり」が実現されるでしょう。
駅を中心に広がるまちの未来
観音寺市が描くビジョンは、単なる駅のリニューアルにとどまりません。駅を中心に据えた都市機能誘導区域(半径約800m)を核とし、北側の商店街や文化施設、南側の大型店舗や住宅地と一体化させることで「歩いて暮らせるまち」「訪れたくなるまち」を形成することを目指しています。
観音寺は古くから港町・商業の町として栄え、金刀比羅宮への参詣道の中継地としてもにぎわった歴史を持ちます。現代においては少子高齢化や人口減少といった課題に直面していますが、駅を拠点とした再開発は「再び人を呼び込む力」を持つ可能性を秘めています。
例えば、観光面では駅からスタートする「スローサイクリングマップ」の策定が進められており、海や島を巡る体験型観光との連動も期待されます。商業面では、駅前に新たな動線を生み出すことで、シャッターの目立つ商店街にも再び活気が戻るかもしれません。
まちづくりに必要な視点
もちろん、課題も少なくありません。既存の商店街の空き店舗をどう活用するのか、車社会の中で歩行者中心の空間をどう維持するのか、JRや県、交通事業者との協議をどのように進めるのか――現実的な調整は山積しています。
しかし重要なのは、「まちの未来をどう描くか」という共通のビジョンを持つことです。駅はただの交通インフラではなく、人の流れと出会いを生み出す場。そこに学び、働き、交流する空間が組み合わさることで、観音寺の暮らしは確実に変わっていくでしょう。
おわりに
昭和の面影を残す観音寺駅は、これから新しい時代の玄関口へと生まれ変わろうとしています。子どもの頃に見た駅舎の姿は懐かしさとともに心に残っていますが、これから先の世代にとっては「未来への希望を象徴する駅」として記憶されるのかもしれません。
観音寺駅を中心としたまちづくりプロジェクトは、単に街並みを変えるだけではなく、観音寺に暮らす人々の誇りや安心を形にしていく取り組みです。その一歩が2026年度から本格的に始まります。
このまちがどのように変わっていくのか。駅前の風景が新しくなるその日を、市民一人ひとりが主体的に見守り、参加していくことが求められています。
◻︎◻︎出典:観音寺市 観音寺駅を中心としたまちづくりプロジェクト
https://www.city.kanonji.kagawa.jp/uploaded/attachment/40447.pdf
【本日の一曲】
Otis Redding – [Sittin’ On] the Dock of the Bay