高松空港がアート空間に変身

――香川出身デザイナー・磯野藍さんの「往古来今」が描く、過去と未来をつなぐ旅路――
香川県の空の玄関口・高松空港が、今秋ひときわ鮮やかなアート空間に生まれ変わりました。
2025年10月9日、旅客機へとつながる搭乗通路「固定橋」の天井に、香川出身のテキスタイルデザイナー 磯野藍(いその・あい)さん のアート作品 「往古来今(おうこらいこん)」 が登場。
空港という“移動の場”に、香川の伝統文化と現代アートが融合した、まるで「空へ続く美術館」のような体験空間が誕生しました。
■ 過去から未来へ――作品名「往古来今」に込めた思い
作品名の「往古来今」とは、**“過去から未来へと連なる時の流れ”**を意味する言葉。
磯野さんは、「香川の伝統文化が現代を経て未来へ受け継がれていくことを、空港という出発の場で表現したかった」と語ります。
高松空港は、瀬戸内国際芸術祭などで国内外から多くの人々が訪れる場所。
その“入口”ともいえる搭乗通路に、香川の文化とアートが融合した空間を作ることで、訪れる人々に“旅の始まり”と“地域の魅力”を感じてもらおうという試みです。
このプロジェクトは、高松空港が進める地域活性化プロジェクト 「空港から人と街を元気に」 の一環。
空港を単なる交通拠点ではなく、「香川の魅力を発信する文化拠点」にしていくという構想のもと、今回のアート展示が実現しました。
■ 郷土玩具をモチーフにした4種類のデザイン
磯野さんが手がけたのは、香川の郷土玩具をテーマにした4種類のデザイン。
なかでも印象的なのが、2番固定橋の「張子の虎:古来」。
黄色やオレンジを基調にした力強い筆致で描かれ、まるで空へ駆け出すような勢いを感じさせます。
ほかにも、香川の郷土文化に欠かせない「奉公さん」や、伝統的な文様をモチーフにしたデザインなど、懐かしさとモダンさが絶妙に溶け合う作品が並びます。
これらのデザインは、磯野さんが手がけるテキスタイルブランド 「YokkePokke(ヨッケポッケ)」 の延長線上にあるもの。
伝統工芸を現代の感性で再構築する彼女のスタイルが、今回の展示空間でも存分に発揮されています。
作品は、2.5メートル×1メートルのポリエステル布をインクジェットプリントで仕上げたもの。
それらを天井に複数枚連ね、2番・3番・5番・6番の固定橋の天井全体を鮮やかに彩っています。
搭乗口へと向かうわずかな時間が、まるでアートギャラリーを歩いているかのような体験へと変わる――そんな空間が誕生しました。
■ 香川の空港が“アートの入口”になる
高松空港は、もともと瀬戸内国際芸術祭へのアクセス拠点としての役割も担っています。
「アートの島」直島や豊島、小豆島などへの観光客が最初に降り立つ場所であり、ここでの体験が香川の印象を左右するとも言えるでしょう。
その意味で、今回の展示は単なる装飾にとどまらず、香川の文化発信の最前線に位置づけられています。
空港関係者も「空港に降り立った瞬間から香川の魅力を感じてもらえるようにしたい」と語り、地域との連携をさらに強めていく考えです。
また、同日からは空港内店舗「四国空市場」で、作品をモチーフにした 手拭いやバッグなどのオリジナルグッズ も販売。
3階展望デッキへ続く「スカイウオーク」では、作品制作に用いられた原画を含む 10点の作品展示 も行われています。
これらの展示は 年内いっぱいを予定しており、訪れるたびに異なる季節の光の中で作品の表情が変化していくのも魅力のひとつです。
■ 作家・磯野藍さんの思い
磯野さんは香川県出身。国内外でテキスタイルデザインの経験を積み、現在は「YokkePokke」を通じて日本の伝統工芸の魅力を発信しています。
今回の制作期間はおよそ半年。
「高松空港のように多くの人が行き交う場所で、地元香川の文化を伝える機会をいただけて本当に光栄でした」と語ります。
初日には、自ら搭乗客にオリジナルグッズを手渡しながら出発を見送る場面も。
作品を見上げながら歩く人々の姿に「空間全体で香川の郷土文化を感じてもらえる場所にしたかった」という想いが重なります。
「この作品が、香川を訪れた人々の記憶に残り、また来たいと思ってもらえるきっかけになれば」と、柔らかく微笑む磯野さん。
その言葉の通り、今回の展示は単なる美術ではなく、“記憶を紡ぐアート” としての存在感を放っています。
■ アートでつながる地域と空
高松空港の取り組みは、いま全国の地方空港にも広がりを見せています。
“アートと地域活性”をテーマに、地域の作家や学生、企業と連携した展示やイベントを行う動きが増えており、空港が地域文化を発信する「ハブ」として再定義されつつあります。
香川の場合、もともとアートへの関心が高く、瀬戸内国際芸術祭 の存在がその流れを後押ししています。
芸術祭の秋会期に合わせて県内を訪れる方々にとって、高松空港のこの展示は“アート旅の始まり”そのもの。
飛行機を降りた瞬間、天井いっぱいに広がる色彩が旅人を迎え、香川の土地の記憶へと誘います。
■ 香川の未来を彩る「アートの力」
空港という場所は、一見すると効率と機能が重視される無機質な空間に見えます。
しかし、そこにアートが加わることで、人の感情や記憶を動かす場へと変わる。
今回の高松空港の取り組みは、まさにその象徴と言えるでしょう。
磯野藍さんの「往古来今」は、過去から未来への時間の流れ、そして地域の文化が現代を経て受け継がれていく物語を静かに語りかけます。
飛行機に乗るほんの数分の間に、ふと立ち止まり見上げたその天井の色が、旅の記憶の中で長く残るかもしれません。
香川の空の玄関で、アートが迎える新しい旅のかたち。
それは、“地域と人をつなぐ、空のキャンバス”。
高松空港から始まるその一歩が、香川の文化と未来をさらに輝かせていくことでしょう。
🛫 瀬戸内国際芸術祭・秋会期 に飛行機で香川を訪れる方は、ぜひ空港から始まるアート体験を。
香川の空と文化が交差する高松空港で、あなたの旅もまた「往古来今」の物語の一部になるかもしれません。
◻︎◻︎出典:高松経済新聞 10月10日 高松空港の搭乗口通路がアート空間に 香川出身デザイナー・磯野藍さん演出
https://takamatsu.keizai.biz/headline/1298/
【本日の一曲】
MGMT – Little Dark Age