2025 06 19

【最近よく思うこと】“伝える”より“伝わる”を大切に

最近、仕事をしている中で改めて強く感じていることがあります。

私は20年以上、地元のハウスメーカーで営業職として働いてきました。家づくりの現場には、設計士や現場監督など、さまざまな専門職の人たちがいます。それぞれが確かな技術と知識を持ち、プロとしての誇りをもって仕事をしています。そして、当然ながら「お客様のために良いものをつくりたい」という気持ちも、全員がしっかりと持っています。

けれど、長年この仕事をしてきて気づいたのは、「その思いが、必ずしもお客様に届いているわけではない」ということでした。

たとえば設計士が、「この構造が一番安全です」と話しても、お客様からすると「なんだか難しいな」「本当に私たちの暮らしに合っているのかな」と不安に感じてしまうことがあります。現場監督が「それは施工上難しい」と伝えても、その理由が専門的すぎて、納得がいかないまま話が進んでしまうこともある。

これは、どこかで「話のスタート地点」がずれてしまっているからだと思うのです。

技術者たちは、どうしても“技術ありき”で話を始めがちです。もちろん、それは間違っていません。むしろ、建築の世界では安全性・耐久性・機能性といった「正しさ」がとても重要で、プロとして外せない視点です。

ただ、一般のお客様にとっては、「その技術が正しいかどうか」よりも、「自分たちの暮らしがどうなるか」の方がずっと大事です。つまり、“何を届けたいのか”という目的を明確にし、そのうえで“どんな技術が必要なのか”を組み立てていく順序が大切なのです。

目的があって、手段がある。お客様にとって大切なのは、「技術そのもの」ではなく、「その技術が自分たちの生活にどう役立つのか」。この順番を間違えると、どんなに正しい説明でも心には届かない。

営業職として、私はいつも「お客様にとっての目的は何か?」「この人は何を求めているのか?」というところから話を始めてきました。そして、その思いを設計に伝え、現場に伝え、逆に設計や現場からの言葉をお客様にわかりやすく翻訳して届ける――いわば、“通訳”のような役割を担っていた気がします。

ちなみに、この「通訳」というのは、社内でも必要なスキルです。

設計士、現場監督、営業――みんな同じ会社に所属していても、まるで違う言語を話しているかのように感じることがあります。それぞれの職種には、それぞれのロジックと優先順位があるからです。同じ「収納が欲しい」という話でも、営業は「使い勝手」、設計は「配置バランス」、現場は「施工・メンテナンスのしやすさ」という観点で考えます。だからこそ、相手の立場を理解し、言葉を調整しながら本質を伝える力がとても重要なのです。

私が個人で仕事をするようになってからも、この考え方は変わっていません。

たとえば、不動産のご相談をいただいたとき。相続や土地活用、住み替えや売却といったテーマには、建築・法務・金融など複雑な要素が絡みます。でも、お客様が本当に知りたいのは「この先どうすればいいか」という道しるべ。専門用語を並べるのではなく、「あなたにとって今、一番大切なのはこれです」とシンプルに伝えることが大事なのです。

だから私は、今も変わらず、何かを説明するときにはこう自問しています。

「この話は、お客様の“目的”につながっているか?」

「私は、何を届けたいと思っているのか?」

技術や情報はとても大切です。でも、それは“道具”であって、“目的”そのものではありません。最初に確認すべきは、お客様が本当に求めているもの。その想いに応えるために、どんな技術や知識が必要かを組み立てていく。

その順序を守ることで、初めて伝えたいことが“伝わる”のだと、これまでの経験から確信しています。

これからも、そんな姿勢を大切にしながら、一人ひとりのお客様と丁寧に向き合っていきたいと思います。

【本日の一曲】
Daiana Ross / I’m Coming Out