2025 07 06

国内市場が縮小しているのに、住宅大手はなぜ好調なのか?

「少子高齢化で家が売れない時代に入った」と言われる今、実際に新築住宅の着工数は年々減っています。そんななかで、主要なハウスメーカーたちが次々と過去最高の売上高を更新したり、利益を大きく伸ばしたりしているという話を聞くと、「えっ?どうして?」と思う方も多いかもしれません。

今回はそのカラクリを、なるべくわかりやすくまとめてみたいと思います。


日本の住宅市場は確実に縮小している

まず大前提として、日本国内での新築住宅の着工数は年々右肩下がりです。

コロナ禍では一時的に「家にいよう」ブームで住宅需要が高まりましたが、2023年・2024年と続けて減少。2024年はリーマンショックの次に低い着工数になってしまいました。

さらに追い打ちをかけたのが2025年4月からの省エネ基準の義務化。この影響で、それまでに駆け込みで建てようという人が増えた結果、前倒し着工が集中し、4月以降はガクッと落ち込むという現象が起きています。

つまり、国内だけに頼っていたら、住宅業界は確実にジリ貧になる…そんな状況にあるわけです。


それでも住宅大手は元気。その理由は?

では、なぜそんな状況でも大手ハウスメーカーは好業績をキープできているのか?

その答えはズバリ、「海外」です。

たとえば、大和ハウス工業。24年3月期の売上高はなんと5兆円超え。戸建住宅事業だけでも前年より20%以上伸び、利益は約2倍に増えました。

でもこれは、日本で売れたからではありません。メインはアメリカ。アメリカの住宅市場は日本と違ってまだまだ成長中で、そこでの販売が絶好調だったんです。

同じく積水ハウス住友林業も、アメリカやオーストラリアなど海外事業が大きく伸び、記録的な売上を出しています。国内ではむしろ戸建販売は減少傾向なのに、それでも全体としては好決算を出せたのは、海外進出が大成功しているからなんですね。


国内では「高価格・高付加価値」へシフト

では、日本国内での住宅販売はもうダメなのか?というと、そういうわけでもありません。

国内では、「たくさん売る」のではなく、「高くても良いものを売る」という方向にシフトしています。1棟あたりの販売価格は、4000万円台、場合によっては5000万円台にまで上昇。

これは原材料や人件費の高騰という背景もありますが、それだけではありません。ハウスメーカー各社が「太陽光」「蓄電池」「断熱」「デザイン」「耐震」といった**“付加価値”**を強化して、ターゲットをより“お金に余裕がある層”に絞っているんです。


では、「庶民向けの家」はどうなってる?

一方で、「もっと安く家を持ちたい」という人たちをターゲットにしているのが、パワービルダーと呼ばれる住宅会社です。

その代表格が飯田グループホールディングス。全国で一番たくさん家を建てているグループです。

こちらは、分譲住宅を大量に作って販売することでコストを抑えるスタイル。25年3月期は在庫整理の影響から回復し、全体的に増収増益。1戸あたりの平均販売価格は3130万円まで上がってはいるものの、ハウスメーカーよりは手が届きやすい価格帯です。

他にも、オープンハウスやタクトホームなどのグループ会社も、それぞれ収益性を改善していますが、やはり資材価格の高騰や新しい基準(省エネなど)への対応が求められる中、価格調整には今後も苦労しそうです。


これからの住宅業界はどうなるの?

さて、こうしてみると、住宅大手が今後も生き残るために取っている戦略が少しずつ見えてきます。

大きく分けて、

  1. 海外市場の開拓
  2. 高価格帯・高付加価値路線
  3. 施工人材の確保

この3つがカギとなってきそうです。


実は深刻な「職人不足」の問題

特に、3つ目の「施工人材の確保」は業界にとってかなり深刻です。

現在、日本の大工さんの人数は年々減っていて、2030年には今の6割程度にまで減少するというデータも出ています。若い人がなかなか入ってこないんですね。

そのため、大手ハウスメーカーは“自社職人”を育成する動きに出ています。積水ハウスは「クラフター」と呼ばれる社員職人を積極的に採用し、10年後には1000人規模にする計画も。こうした動きが今後ますます広がっていきそうです。


家づくりは大きな転換期に来ている

今、日本の住宅業界は大きな転換期にあります。

人口が減り、家が余る時代に突入する一方で、海外市場で稼ぐ会社、国内で高付加価値住宅にシフトする会社、庶民向けに手頃な住宅を供給する会社、どれもそれぞれの道で生き残りを模索しているのです。

その裏には、「どんな家がいいか」だけでなく、「どんな人生を送りたいか」という住まい手の想いもあります。

もし今、「家を持つかどうか」を考えている方がいれば、住宅そのものだけでなく、「住宅業界がどんな方向に動いているか」を知っておくのも、良い判断材料になるかもしれませんね。

【本日の一曲】
Soft Machine / Moon In June