2025 07 13

成長が止まった社会で、いかに豊かに生きるか

私たちは今、ひとつの「時代の転換点」に立っています。

20世紀の常識──それは「成長こそ正義」というものでした。人口は右肩上がりに増え、経済も拡大を続ければ人々は豊かになり、未来は常に明るくなる。そんな前提で、私たちの社会のあらゆる仕組みは設計されてきました。

けれども、もうお気づきかと思います。その時代はもう終わったのです。


物の豊かさは、もう十分

「豊かさ」という言葉を聞いて、あなたは何を思い浮かべますか?

高性能な家電、大きな車、広い家、どこでも手に入る便利なモノたち。昭和から平成を通じて、私たちはそうした「物質的な豊かさ」を目指してきました。そして実際、それはある程度まで達成されました。

スマートフォン一台で世界中の情報にアクセスでき、家にはエアコンも冷蔵庫も食洗機もある。モノに困ることは、少なくとも日本ではあまりなくなってきました。

ところが、不思議なことに「心の豊かさ」はそれと比例して増えていない。むしろ、鬱屈とした空気が社会を覆い、将来への不安や閉塞感が強まっているように感じます。

その原因の一つが、「成長し続けることが当然」と思い込んでいた20世紀的な価値観に、私たちが未だに縛られていることにあるのではないでしょうか。


減っていく社会でどう生きるか

日本は、これから本格的な人口減少社会に突入します。すでに地方では、空き家があふれ、働き手が足りず、学校や病院の統廃合が進んでいます。都市部でも少子化の影響は着実に広がりつつあります。

つまり、これからの日本社会は「成長しない」どころか、「縮小していく」ことが前提となる時代なのです。

これまでのように、「市場が広がるから利益も広がる」「働けば働くほど給料が増える」「将来は今より良くなる」といった希望的観測は、残念ながら通用しません。

そんな中で、私たち一人ひとりが問われているのは、「では、どうやって生きるのか」ということ。


パイの奪い合いではなく、視点の転換を

縮小する社会で、私たちがまずしがちなのは、「パイの奪い合い」です。

減っていく人口、減っていく顧客、減っていく雇用。限られた資源を奪い合い、勝ち残った者だけが生き延びる──そういう競争モデルに突入してしまうと、社会全体がギスギスし、より多くの人が取り残され、孤立してしまいます。

でも、本当にそれしか方法はないのでしょうか?

今あるモノや場所、関係性を、「奪い合う」のではなく、「分け合い」「使い方を工夫し」「新しい価値を見出す」方向へシフトできないでしょうか?

たとえば、空き家が増えているのなら、それを活用して季節や気分によって複数の場所を移動しながら暮らすライフスタイルに目を向けてもいいかもしれません。

「一つの家に一生住む」ことが正解という常識を疑えば、「多拠点生活」「デュアルライフ」「週末移住」など、選択肢は思ったより豊富にあるのです。


「適切なあきらめ」が未来を開く

この社会に必要なのは、適切なあきらめだと思います。

「もう人口は増えない」「経済もどんどんは成長しない」「すべての人が正社員で働く時代ではない」──これらは、決して悲観すべきことではありません。むしろ、現実を直視することが、次の可能性への扉を開いてくれます。

「成長を追い求める社会」から、「心豊かに暮らす社会」へと、価値観を180度転換する必要があるのです。

たとえば、収入が増えないことを前提に、「あまりお金をかけずに楽しむ方法を見つける」。モノを増やすよりも、「時間」や「自然」や「人とのつながり」に価値を見出す。こうした考え方は、もはや選択肢ではなく、これからの生き方の“基本”になっていくでしょう。


豊かさの再定義

「豊かさ」とは何か? 改めて問い直してみたいと思います。

昔のように、車を何台も持つとか、タワーマンションに住むとか、そういった“モノの量”で競う時代は終わりました。

これからの豊かさは、

  • 自分の時間を大切にできること
  • 地域や自然と調和した暮らしができること
  • 無理なく働ける範囲で、必要な収入を得ること
  • 誰かと温かい関係を持てること
  • 必要に応じて移動し、柔軟に暮らせること

こういった、「内面的で静かな豊かさ」ではないでしょうか。


日本社会は、作り直せる

高度成長期から続く「一億総中流」や「右肩上がり」幻想は、もう捨てるべき時です。

これからは、個人が自分らしく、無理なく、ささやかな楽しみを見つけながら、長く暮らしていける社会を目指すべきではないでしょうか。

行政や企業がそれに対応できていない部分も多いですが、逆に言えば、一人ひとりの意識と選択が、これからの日本社会をつくっていくのです。

いま必要なのは、縮小の時代を前向きにとらえ、成長ではなく成熟を目指すという発想の転換。

未来は、まだつくり直せます。そして、これからの社会は、競争ではなく「分かち合いと想像力」で成り立っていくのかもしれません。


おわりに

成長が止まった社会で、いかに心豊かに生きるか。

その答えは、すでに私たちのすぐそばにあるのかもしれません。派手ではないけれど、静かで確かな“満ち足りた日常”。

この小さな幸せを大切にできる人こそが、これからの時代の「勝者」なのだと、私は思います。

「変わること」を恐れず、むしろ楽しみながら、これからの社会を一緒に作っていきましょう。

【本日の一曲】
Afrika Bambaataa & The Soulsonic Force / Planet Rock