2025 07 24

「香川の名建築を未来へ」——旧香川県立体育館に再生の提案

香川県で不動産業を営む私にとって、「建物の価値」とは単に築年数や設備、立地条件だけでは測れないものだと日々感じています。そこにある「時間の積み重ね」や「記憶」、そして「まちとの関係性」。それらすべてが建物に命を吹き込んでいるのです。

そんな思いを強くするニュースが、昨日飛び込んできました。あの建築界の巨匠・丹下健三が設計した名建築、旧香川県立体育館(通称:香川県体育館)に新たな活用提案が出されたのです。

解体の決定から生まれた「再生」の道

1964年に竣工した旧香川県立体育館は、戦後日本建築を代表するモダニズム建築のひとつ。船のような流線型の屋根をもつ美しい姿は、香川県民にとって馴染み深いものでした。

しかし老朽化と耐震基準の不足を理由に、県は2025年度中の解体を決定。約10億円の予算をかけて解体を進める方針が示され、すでに事業者選定の入札準備まで進んでいました。

そんな中、民間団体「旧香川県立体育館再生委員会」が、「建物を買い取るか借りる形で、自己資金のみで保存・再生できる」と提案。県に対し、再度協議の場を持つよう申し入れを行いました。

ホテルとして再生する2つの構想

再生委員会が示したのは、以下の2つの大胆なプランです。

① ブックラウンジ併設ホテル案

建物の低層部(1〜2階)にはライフスタイルホテルを配置し、3階以上の広々とした空間にはブックラウンジやアートスペース、カフェを整備。宿泊と文化、建築体験が融合する施設にするという案です。

② 1棟まるごとホテル案

こちらはインバウンド(訪日外国人)を主なターゲットとし、建物全体を宿泊施設へと転用する提案。光庭を取り入れた開放的な空間設計で、「ここにしかない体験」を提供します。

どちらの案も共通しているのは、「文化財のように保存する」のではなく、「収益を生みながら長く愛される場として建物を活かす」という視点です。

保存に必要な耐震改修も、実は可能?

かつて県が試算した際には、耐震改修費は約18億円と見積もられ、「保存は現実的でない」とされていました。

しかし今回の再生委員会による技術的再評価では、改修費はおよそ6〜10億円。建築家・青木茂氏による「リファイニング建築」技術を活用することで、大幅なコスト削減と耐震性確保が両立できるといいます。

つまり、「保存するには莫大な費用がかかる」という前提そのものが、今や再検討の余地があるわけです。

香川県の対応と、今後の鍵は「民意」

この再生案をめぐって、香川県の池田知事は「まだ具体性に欠ける」として、現時点では解体の方針に変更はないと明言しています。

しかし、一方で再生委員会はすでに複数の企業・不動産ファンドと接触済み。事業性も、控えめなプランで年間1億円の営業利益が見込めるなど、持続可能なビジネスとして成立する可能性があるとしています。

では、これから何が決め手になるのか? それは「世論」、つまり私たち一人ひとりの声と関心です。

香川にとっての「宝」を未来へ

かつて香川県庁舎や香川県立体育館といった公共建築に、世界的な建築家・丹下健三を起用した香川は、行政と建築文化が見事に融合していた地域でした。

その遺伝子は、今でも香川の街の風景に色濃く残っています。

今回の再生提案は、「かつての先人の志を未来に継承するチャンス」でもあります。文化財としてただ守るのではなく、人の営みの中で建物を活かし続けるという選択肢は、地方にとって非常に価値のあるものではないでしょうか。

建物には、役割を終えたあとにも新しい「人生」があります。

この旧体育館が、今度は訪れる人々を迎える「ホテル」として、また香川のシンボルとして再生する日が来るかもしれません。

「壊すより、活かす」。
その視点が、これからの地方都市の建築文化の未来を拓いていく——そんな気がしています。

■■出典:BUNGA NET 「速報:丹下健三の旧体育館は民間で買い取り「ホテルに」と提案、「香川県は費用をかけずに保存が可能」とした事業スキームを見る
     https://bunganet.tokyo/kagawasoan/
    

【本日の一曲】
Jay Dee / ’93 til