2025 09 09

暮らしにアートを迎え入れる ― タカラスタンダード × ヤノベケンジ「SHIP’S CAT(Mirror)」誕生ストーリー

現代アートと住宅設備。
一見するとまったく交わらないように見える2つの分野が出会い、驚きの形となって生まれたのが「SHIP’S CAT(Mirror)」です。国内シェアNo.1のキッチンメーカーとして知られるタカラスタンダードと、現代美術作家・ヤノベケンジ氏による異色のコラボレーション。その背景には、日本のモノづくりとアートの可能性を切り開く、新しい挑戦の物語がありました。


ヤノベケンジと「SHIP’S CAT」シリーズ

ヤノベケンジ氏は1990年代から活動を続ける現代美術作家。鉄や鉛、アルミといった金属を用いて、実際に動かしたり乗ったりできる「機械彫刻」を数多く制作してきました。彼の作品にはいつもユーモアがあり、同時に社会への鋭いメッセージが込められています。

その代表作のひとつが「SHIP’S CAT」シリーズ。大航海時代、船に乗り込みネズミから食料や貨物を守り、船員たちの心を癒してきた“船乗り猫”をモチーフに、人々の旅の安全や幸福を祈る守護神として表現されました。大阪中之島美術館に設置された「SHIP’S CAT(Muse)」は、今や街のシンボルとして多くの人に親しまれています。


タカラスタンダードとホーロー技術

一方、タカラスタンダードは1912年に誕生した老舗メーカー。日本で初めて「ホーローキッチン」を開発し、独自の「高品位ホーロー」で業界をリードしてきました。ホーローとは、金属の表面にガラス質の釉薬を焼き付けた素材で、耐久性・清掃性に優れ、長く美しい状態を保てるのが特長です。

ホーローは一見無機質に思えますが、七宝焼きにも通じる工芸的な美しさを備えており、「永遠に色褪せない素材」とも言われています。この素材にアーティストが関心を寄せ、住宅設備の枠を越えた新しい表現が生まれる。そんな化学反応を狙ったのが、今回のコラボレーションでした。


「SHIP’S CAT(Mirror)」誕生のきっかけ

ヤノベ氏がタカラスタンダードの高品位ホーローに触れたとき、そこにアート素材としての可能性を直感しました。ホーローの強さと美しさ、そしてインクジェット印刷技術により緻密な表現が可能な点に惹かれ、「SHIP’S CAT」を暮らしに取り入れる新しい作品が構想されます。

こうして誕生したのが、鮮やかな朱色のスーツをまとった猫の姿をかたどった「SHIP’S CAT(Mirror)」。ヘルメットとブーツ部分はステンレスミラー仕上げとなっており、日常生活で鏡として使用できる実用性を兼ね備えています。まさにアートと暮らしが融合したプロダクトです。


暮らしを見守る「守り神」としての鏡

古来より、鏡は魔除けや清めの象徴として神社仏閣に祀られてきました。また、猫もまた福を招く存在として日本人に親しまれています。

その両方を掛け合わせた「SHIP’S CAT(Mirror)」は、家の中で日常を支える守護神のような存在。玄関に置けば出かける前に身だしなみをチェックでき、サニタリースペースではサブミラーとして役立ちます。それだけでなく、愛らしい姿が視界に入るだけで気分が上向きになる、そんな力を持っています。

「実用性」と「アート性」を両立させたこの作品は、日常に小さな豊かさを届けてくれる存在です。


技術革新としての意義

今回のプロジェクトは、タカラスタンダードにとっても新しい挑戦でした。従来のホーローパネルは直線的な形状しか実現できませんでしたが、レーザー加工技術を応用することで、SHIP’S CATの特徴である曲線的なフォルムを可能にしました。

この成果は単なるアート作品にとどまらず、今後の住宅設備におけるデザインの可能性を広げるものでもあります。直線だけではなく曲線を活かしたホーロー製品の量産が実現すれば、キッチンやバスルームに新しい美しさを加えることができるのです。


「BIG CAT BANG」へと広がる世界

このコラボレーションは、ヤノベ氏の新作「BIG CAT BANG」にもつながっていきます。GINZA SIXの吹き抜けに展示された宇宙猫たちは、銀河を旅する壮大なスケールの作品。中之島美術館の巨大な猫、そして家庭に迎え入れることのできる「Mirror」。大小さまざまな形で展開されるSHIP’S CATシリーズは、今や一つの文化的アイコンになりつつあります。


ヤノベ氏の言葉に見るコラボの意味

ヤノベ氏はインタビューでこう語っています。
「タカラスタンダードは大阪の宝。その技術と僕のアイデアが融合して生まれた『SHIP’S CAT(Mirror)』は、家庭で人を幸せにできる製品になったと思う。」

アートかデザインかという枠を越え、両者が手を取り合うことで新しい価値が誕生しました。それは単なる商品ではなく、暮らしに寄り添う作品であり、同時に生活を豊かにする道具でもあります。


これからの可能性

今回の「Mirror」を皮切りに、将来的にはさらに大胆な展開も夢ではありません。例えば猫の形をした浴槽、蛇口から水が出るキッチン、さらにはホーローで建築された「猫の家」。アートと技術の融合がもたらす未来は、想像するだけでわくわくします。

タカラスタンダードが掲げる「ホーロー×アートプロジェクト」は、単なる文化的支援ではなく、ホーローという素材を次世代へつなぐ挑戦でもあるのです。


まとめ ― アートが日常を変える瞬間

「SHIP’S CAT(Mirror)」は、アートと暮らしを結ぶ架け橋です。
鏡としての実用性を持ちながら、守り神のように家族を見守り、空間を彩る存在。そこには、アートは特別な場所だけにあるものではなく、日常の中にこそ息づくものだというメッセージが込められています。

私たちの生活を支える住宅設備と、心を豊かにするアート。その2つが出会ったことで、新しい暮らしの可能性が生まれました。
それは単なるコラボ製品ではなく、「暮らしをもっと楽しくする」ためのユニークな試みなのです。

■■出典:タカラスタンダード Takara standard × KENJI YANOBE
     https://www.takara-standard.co.jp/brand/yanobekenji/

【本日の一曲】
BOBBY CALDWELL / WHAT YOU WON’T DO FOR LOVE