2025 09 15

気温の高い時期のマラソン開催、そろそろ考え直す時期では?

マラソンは「持久力」が問われる競技です。100m走やフィールド競技のように一瞬の爆発的なパワーを発揮するものではなく、数時間にわたって体温・水分・エネルギー管理をしながらゴールを目指すスポーツです。だからこそ、昔からマラソン大会の多くは冬のシーズンに開催されてきました。日本国内でも東京マラソンは3月、大阪マラソンは2月など、寒い季節に設定されている大会が多いのは偶然ではありません。

しかし近年、世界的な気候変動や大会運営の都合などにより、気温が高い時期にフルマラソンが行われることが増えてきました。今回の世界陸上では、気温30℃近く、湿度も高い中でのレースとなり、過酷さが一層際立ちました。これは本当に安全なのか、そして競技として成立しているのか、改めて考えるべき時期に来ているのではないでしょうか。


高温環境でのマラソンが抱えるリスク

マラソンは長時間の有酸素運動です。気温が高い環境では体温調整のために大量の汗をかき、血液が筋肉よりも皮膚へと多く流れるため、パフォーマンスが大きく低下します。また、脱水症状や熱中症のリスクも高まります。特に30℃を超える環境下では、どれほどトレーニングを積んだ選手でも命の危険と隣り合わせです。

このリスクはエリート選手だけでなく、市民ランナーにとっても深刻です。市民ランナーは年齢層が幅広く、必ずしも万全のコンディションで参加できるとは限りません。競技レベルに関係なく「高温環境下でのフルマラソンは危険である」という認識をもっと共有する必要があるでしょう。


世界のマラソン大会に見る「暑さ対策」

私は昨年、台湾のマラソン大会に出場しました。12月開催にもかかわらず、スタート時間は朝6時半。これまであまり意識していませんでしたが、日本より緯度が低く赤道に近い地域では、早朝スタートは当たり前のようです。ホノルルマラソンは朝5時、タイなど東南アジアでは朝3時台スタートの大会もあります。こうした極端な早朝スタートは、暑さ対策の一環として定着しているのです。

日本の大会は比較的スタート時間が遅く、9時前後に始まるものが多いですが、今後は国内でも「より早いスタート」が標準になるかもしれません。とくに夏場や残暑厳しい時期の大会では、早朝開催こそが安全確保の鍵となります。


建築現場の「空調服」がマラソン界に進出する未来?

近年、建築現場や屋外作業で普及している「空調服」。小型ファンを搭載し、服の中に外気を取り込むことで汗の蒸発を促し、体温上昇を防ぐウェアです。このようなテクノロジーが、いずれマラソンウェアにも応用されるかもしれません。

もちろん重量やデザイン、電源の問題など課題はありますが、ウェア自体が冷却機能を持つことで、これまでより安全に走れる未来も見えてきます。スポーツメーカー各社はすでに「冷感素材」や「通気性の高いウェア」を開発していますが、今後はもっと積極的に「体温管理テクノロジー」を導入する可能性があります。


大阪マラソンの例に見る「寒さは味方」?

ちなみに、今年の大阪マラソンは最高気温が5℃。途中で雪の降る中でのレースでした。待っている間は確かに寒く、スタート前の体調管理は大変でしたが、走ってしまえばむしろ快適。マラソンは本来「寒いほうが走りやすいスポーツ」であることを、あらためて実感しました。

寒い環境では、体温を維持するために多くのエネルギーを消費しますが、暑さによる熱中症や脱水のリスクは格段に下がります。適切な防寒対策をすれば、冬のマラソンはむしろ安全な環境といえるでしょう。


市民ランナーの夏場の練習は「室内トレッドミル」で

私のような市民ランナーの場合、夏場の練習は基本的に室内のトレッドミル(ランニングマシン)で行うのが良いかもしれません。冷房の効いたジムであれば、体温上昇や脱水のリスクを最小限に抑えながら持久力を維持することができます。(現状は、涼しい時間帯に屋外でおこなってます)

もちろん、実際のレースは屋外なので、屋外での練習も必要ですが、炎天下で無理をして走ることは避けるべきです。むしろ秋や冬に向けての準備期間として「室内での質の高いトレーニング」にシフトする方が、結果的にケガや体調不良を防ぐことにつながります。


暑い時期のマラソン開催が抱える課題と改善点

最後に、暑い時期のマラソン開催における課題と、その改善策を整理してみましょう。

① スタート時間の大幅前倒し

夜明け前や早朝スタートにすることで、日中の高温を避けることができます。世界のマラソン大会の多くがすでに取り入れている手法です。

② 給水ポイント・ミストシャワーの増設

水分補給だけでなく、体表面の温度を下げるためのミストシャワーや氷の提供などを増やすことが重要です。

③ 医療体制の強化

高温環境では熱中症のリスクが急増します。医療スタッフの増員や救護所の増設など、緊急対応力を高める必要があります。

④ 参加資格や制限の見直し

気温の高い大会では、健康状態や持久力を確認する仕組みを導入し、参加者を適正に制限することも検討されるべきでしょう。

⑤ ウェアや装備の革新

空調服のような冷却機能付きウェアや、身体冷却用のグッズを普及させることが、今後のランナーの安全につながります。

⑥ 開催時期そのものの見直し

夏や残暑厳しい時期を避け、秋から冬にかけて開催する方向にシフトすることが、最も確実な安全策といえるでしょう。


まとめ:気温条件を無視した開催はもうできない時代に

マラソンは「屋外で長時間動き続ける」という性質上、気温・湿度・風などの環境条件に強く影響されます。かつては「多少暑くても根性で乗り切る」という精神論が主流でしたが、現在は科学的知見が進み、命にかかわる危険性がはっきりと示されています。

今後は「今までそうしてきたから」という理由だけで暑い時期に開催することは、危険すぎる選択です。大会主催者はもちろん、参加するランナー自身も「環境条件を最優先する」という意識を持つことが求められます。

マラソンは本来、走る楽しさや自己挑戦、そして達成感を味わうためのスポーツです。その本質を守るためにも、暑い時期のマラソン開催をどう見直すか、真剣に考える時期に来ているのかもしれません。

【本日の一曲】
Dan Shake – 3AM Jazz Club