「令和5年住生活総合調査」から見える日本人の住まいの変化とこれから

はじめに
国土交通省が2025年8月に発表した「令和5年住生活総合調査(確報)」は、全国約10.8万世帯を対象に実施された大規模調査です。本調査は、住宅や居住環境に対する満足度、住み替えやリフォームの実態、今後の住まい方の意向など、私たちの生活に直結する「住まい」の実情を総合的に把握するものです。
令和5年というと一昨年のデータですが、発表時点の2025年現在よりも景気がまだ良かった時期にあたります。現在の経済状況を踏まえると、住宅や居住環境に関する意識は今後さらに変化していく可能性があります。
この記事では、「令和5年住生活総合調査」の確報結果をベースに、日本の住宅事情の現状と今後の見通しを解説します。
1.「住生活総合調査」とは何か
「住生活総合調査」は、国土交通省が5年に一度実施している調査で、今回で14回目を数えます。平成15年までは「住宅需要実態調査」と呼ばれており、平成20年以降は総務省の「住宅・土地統計調査」と連携し、住宅の実態だけでなく、住民の意識や満足度、今後の希望などを包括的に把握する形へ進化しました。
本調査の対象は、全国約290万世帯から無作為抽出した約10.8万世帯。郵送やオンライン回答を通じて、2023年12月1日時点の状況を調べています。国・自治体の政策立案だけでなく、住宅業界や学術研究など幅広い分野で活用される基礎資料となっています。
2.住宅・居住環境に対する評価:満足度はおおむね横ばい
調査によると、住宅・居住環境に関する総合評価は、10年前と比べて「おおむね横ばい」という結果になりました。
- 「住宅」そのものの不満率は着実に低下しており、特にファミリー世帯では改善が顕著。
- 一方で「居住環境」(周辺環境や公共施設、交通利便性など)への不満率は横ばい。
- 借家に住む世帯の不満率は、持ち家に比べ依然として高く、特に単独世帯や高齢者世帯では改善が進んでいません。
また、住宅で重視する項目別に見ると、
- 単独世帯(64歳以下)は「遮音性(上下階や隣戸からの騒音対策)」
- ファミリー世帯は「広さ・間取り」や「防犯性」
に不満が集中しています。持ち家と借家の差はここで特に顕著に出ています。
3.維持管理の実態:一戸建ての点検実施率はわずか2割
調査では、住宅の維持管理についても質問しています。
- 一戸建て住宅で「定期的に点検を行っている」と回答した世帯は全体の約2割にとどまりました。
- 「修繕等の費用を確保している」や「履歴情報を保管している」など、計画的な維持管理を行っている世帯はさらに少ないのが現状です。
日本の住宅は欧米に比べ寿命が短いと言われますが、その背景には「建てた後のメンテナンス文化」が根付いていないことが指摘されています。この調査結果はその現実を裏付けるものとなっています。
4.住み替え・リフォームの動向:「借家→持ち家」シフトが鮮明に
令和5年調査では、約2割の世帯が直近5年間で住み替えを経験し、同じく約2割がリフォームを実施しています。特に注目すべきは、ファミリー世帯の「借家から持ち家への移行」が増加していることです。
住み替えの理由を見ると、
- 単独世帯(64歳以下):世帯独立、自宅所有のため
- ファミリー世帯:子どもの成長、持ち家取得
- 高齢者世帯:高齢期に住みやすい環境への移行、契約期限・立ち退き要求など
このようにライフステージに応じて住まいを変える動きが強まっています。
5.今後の住み替え意向:借家・既存住宅への志向が増加
「今後住み替えをしたいか」という質問に対しては、全体として10年前とほぼ横ばいでした。しかし、細かく見るといくつかの傾向が浮かび上がります。
- 持ち家世帯・借家世帯ともに、「新築」より「既存住宅(中古物件)」への関心が増加。
- 「借家への住み替え」の意向も増えており、柔軟な住まい方を求める傾向が見えます。
- 単独世帯(64歳以下)は「住宅の質向上」が目的、ファミリー世帯は「子供の誕生・成長」、高齢者世帯は「高齢期の住みやすさ」や「住居費負担の見直し」など、世代によって重視点が異なります。
6.調査結果が示す日本の住宅課題
この調査から、日本の住宅・居住環境には以下の課題が浮かび上がります。
- 都市部と地方の格差
都市部では住宅の質や周辺環境が改善されつつある一方、地方や郊外では選択肢が限られ、満足度が伸び悩んでいます。 - 借家の質向上
持ち家に比べて借家の不満率が高い現状は、賃貸住宅市場の質的改善が求められていることを示しています。 - 維持管理文化の不足
一戸建て住宅で点検・修繕を行う世帯が少なく、住宅の長寿命化に向けた仕組みやインセンティブが必要です。 - ライフステージに応じた住み替え支援
高齢期の住み替えや子育て世帯の持ち家取得など、個別ニーズに合った政策や民間サービスが求められます。
7.これからの住まいの方向性
今回の調査は、景気が現在よりもやや良かった時期のデータです。今後、物価上昇や金利動向、人口減少などが住宅市場にさらなる変化をもたらす可能性があります。
- リフォーム・中古市場の拡大
新築よりもコストを抑えられる中古住宅への関心が増えるとともに、リフォーム市場が一層拡大していくでしょう。 - コンパクトシティ・地方移住の進展
交通インフラや生活利便性の高い「コンパクトな街」に需要が集中する一方で、テレワークなどを背景に地方移住の動きも広がっています。 - 多様な住まい方の実現
シェアハウス、二拠点生活、サブスク型住宅など、従来の「持ち家or借家」という二分法を超えた選択肢が求められる時代になっています。
まとめ
「令和5年住生活総合調査」は、日本人の住まいに対する意識と行動の変化を浮き彫りにしました。住宅そのものの質は着実に向上している一方、居住環境や借家の質、維持管理の不足など課題も残されています。
これからの日本の住宅政策や不動産市場は、こうした調査結果を踏まえ、より柔軟で持続可能な住生活の実現に向けて動いていく必要があります。
あなた自身の住まいについても、今一度「本当に満足しているか」「今後どうありたいか」を考えるきっかけにしてみてはいかがでしょうか。
◻︎◻︎出典:国土交通省 令和5年住生活総合調査
結果のポイント:https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001907065.pdf
報告書:https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001907386.pdf
【本日の一曲】
Moody – Anotha Black Sunday