東華菜館の日本最古のエレベーターが教えてくれた「建物の本当の価値」
普段、不動産や住宅の仕事をしていると、エレベーターを設置する機会はほとんどありません。
香川県では戸建住宅の多くが2階建てまでですので、エレベーターが必要になるケースはごく限られています。
そんな私が思わず見入ってしまったのが、京都・四条大橋近くにある老舗北京料理店「東華菜館」の日本最古の現役エレベーターです。
「日本最古」と聞くと、博物館に展示されているような設備を想像していました。
ところが驚いたのは、約100年前に設置されたエレベーターが、今も毎日現役でお客様を運んでいることです。
しかも自動ではありません。
運転士さんがレバーを操作しながら、各階へ丁寧に停止させます。
少しでもレバーを戻すタイミングが早ければ段差ができ、遅ければ行き過ぎてしまう。
今ではコンピューターが当たり前に行っていることを、人の感覚と技術だけで正確に行っているのです。
乗る人にとっては数十秒の出来事ですが、その裏側には熟練した技術があります。
現代のエレベーターはボタンを押せば自動で動きます。
便利になった反面、「誰かの技術」を意識することはほとんどありません。
東華菜館のエレベーターは、その技術そのものが体験になっています。
建物そのものが料理の一部
東華菜館の魅力は料理だけではありません。
1926年に建てられたスパニッシュ・バロック様式の建物には、イスラム文化や中国文化などさまざまなデザインが取り入れられています。
家具や照明、装飾まで当時の世界観を大切に残し、建物全体が一つの作品になっています。
お店の方がお話しされていた言葉がとても印象的でした。
「料理だけでなく、この建物に入り、日本最古のエレベーターに乗り、空間全体を楽しんでいただきたい。」
まさに料理だけではなく、「時間を旅する体験」を提供しているのです。
古い建物は「残す」のではなく「育てる」
建物は放っておけば長持ちするものではありません。
東華菜館では、細かな修繕やメンテナンスを積み重ねながら、100年近く営業を続けています。
料理も毎年試食を行い、その年の食材に合わせて微調整をする。
建物も料理も、「昔のまま」に見えて、実は絶えず手を加え続けています。
これは住宅にも通じる考え方です。
家も建てたら終わりではありません。
外壁や屋根、防水、設備の交換など、小さなメンテナンスを積み重ねることで、何十年も快適に住み続けることができます。
新築時の性能だけではなく、「どう維持していくか」が建物の寿命を大きく左右します。
新しいことだけが価値ではない
近年は「最新設備」「最新デザイン」「最新性能」という言葉をよく耳にします。
もちろん新しい技術は素晴らしいものです。
しかし東華菜館を見て感じたのは、「古いものを磨き続けること」も、新しいものをつくることと同じくらい価値があるということでした。
100年前のエレベーターが動いていること自体がすごいのではありません。
100年間、大切に使い続けてきた人たちがいることが、本当にすごいのです。
建物は人が育てるもの。
その考え方が、空間全体から伝わってきました。
不動産も「体験」を提供する時代へ
不動産業界でも、「家」というモノだけを見る時代から、「その家でどんな暮らしができるか」という体験を提案する時代へ変わっています。
東華菜館も料理だけを売っているのではなく、建物、歴史、空間、接客、そして日本最古のエレベーターまで含めた「体験」を提供しています。
だからこそ、多くの人が料理だけでなく、建物そのものを楽しみに訪れるのでしょう。
京都には歴史ある建物が数多く残っていますが、その価値は古いからではありません。
長い年月をかけて大切に守り、今の時代に合わせながら受け継いできた人たちがいるからです。
住宅も同じです。
長く住める家は、完成した瞬間ではなく、その後の暮らしの中で育っていきます。
日本最古のエレベーターは、そんな「建物との付き合い方」を静かに教えてくれているように感じました。
◻︎◻︎北京料理 東華菜館
https://www.tohkasaikan.com/information/elevator.html
Discover Japan 《東華菜館》装飾と光が融け合う北京料理の館 京都の美味しいレトロ建築⑦
https://discoverjapan-web.com/article/118877
【本日の一曲】
Mariano Sívori – No dogma
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