「20代以下の持ち家率が過去最高」――本当に住宅市場は明るくなったのか?
先日、こんなニュースがありました。
「20代以下が世帯主の2人以上世帯の持ち家率が過去最高になった」
20代の若い世代がマイホームを購入する割合が増えている、というニュースです。
「過去最高」と聞くと、
「若い人たちがどんどん家を買っているんだ!」
「住宅市場も明るくなってきたのでは?」
そんな印象を受けるかもしれません。
でも、普段から住宅業界にいる私としては、少し違った見方をしてしまいます。
今回は、このニュースを少しだけ違う角度から考えてみたいと思います。
20代以下の持ち家率は「19.7%→40.7%」
まず、数字だけを見ると確かにすごい。
2000年の20代以下が世帯主の2人以上世帯の持ち家率は19.7%。
それが2025年には40.7%。
実に約2倍です。
「若い人のマイホーム取得が大幅に増えた」と考えてしまいますよね。
ただ、ここで忘れてはいけないのが、日本そのものの人口構造が大きく変わっていることです。
例えば、2000年の総婚姻件数は約78万8千組。
一方、2025年は約48万9千組。
婚姻率も2000年の6.3から、2025年には4.1まで低下しています。
つまり、そもそも「結婚する人」が減っている。
もちろん、すべての人が結婚してから家を買うわけではありませんが、住宅購入と結婚には大きな関係があります。
「結婚して、子どもができて、家を買う」
かつては、そんな住宅取得の流れがかなり一般的でした。
「今買わないと、もっと買えなくなる」
現在は、不動産価格が上昇しています。
さらに、以前のような「ずっと低金利」という環境でもなくなってきました。
そうなると、
「今後さらに価格や金利が上がるなら、早く買ったほうがいいのでは?」
という心理が働きます。
そこで登場してきたのが、40年・50年といった超長期の住宅ローンです。
例えば25歳で50年ローンを組めば、完済は75歳。
30歳なら80歳です。
当然、返済期間が長くなれば、月々の返済額を抑えやすくなります。
まだ所得がそれほど高くない20代でも、ローンの返済負担率をクリアしやすくなる。
さらに共働き世帯では、ペアローンなどを利用することで、今までなら手が届かなかった住宅にも手が届くようになります。
ここで重要なのは、返済期間の関係上、40〜50年返済の超長期住宅ローンは若い人に向けて作られているということ。表現を変えると「20〜30代の若い人専用」の住宅ローンということです。
こうして考えると、20代の持ち家率が上がっていること自体は、それほど不思議ではありません。
住宅業界から見ると、少し違った景色に見える
ここからは、あくまで私が不動産・建築の住宅業界にいる立場から感じることです。
現在の住宅業界は、
人口減少
+インフレ
+住宅価格上昇
+住宅ローン金利上昇
という、なかなか厳しい環境にあります。
当然、住宅を購入する人そのものが急激に増える状況ではありません。
そんな中で、40年、50年という超長期ローンによって、これまで住宅購入の中心だった30代・40代になる前の20代の購入層を前倒しで取り込むことができます。
言い方は悪いですが、業界側から見ると「先食い」とも考えられるわけです。
今まで30歳、40歳くらいで家を買っていた人が、20代で購入する。
そうなれば、当然ながら「今」の住宅購入者は増えます。
だからこそ、20代の持ち家率が過去最高になったことだけを見て、住宅市場が好調になったと判断するのは少し早いのではないかと思ってしまいます。
では、その先に何があるのか?
ここが私が一番気になるところです。
20代で家を買う人が増えれば、その人たちは本来なら30代や40代になった時に住宅購入をするはずだった人たちです。
つまり、今の住宅需要を前倒ししているだけなら、
10年後、20年後の住宅購入者はさらに減ってしまう
可能性があります。
もちろん、そんな単純な話ではありません。
買い替えや住み替え、中古住宅市場、賃貸市場などもあります。
それでも、人口が減り続ける中で「今までより若い世代に家を買ってもらう」ことには、必ず限界があります。
その先には……。
50年ローンの次は60年ローン?
いや、70年ローン?
そのうち、
「親子でローンを引き継ぎます!」
なんて商品まで出てきたりして(笑)。
海外では非常に長期の120年住宅ローンが存在する例もありますので、あながち冗談とも言い切れないのが怖いところです。
「持ち家率過去最高」は悪いニュースなのか?
もちろん、20代でマイホームを購入すること自体が悪いわけではありません。
若いうちに住宅を取得することで、家賃ではなく自分の資産にお金を回せるメリットもあります。
インフレによって物価や建築費が上がっていく中では、住宅を早く取得することが資産防衛につながるケースもあります。
一方で、「ローンが払える」と「無理なく払い続けられる」は別の話です。
50年ローンで月々の返済額を抑えたとしても、住宅ローンは50年間続きます。
子どもの教育費、車、修繕費、老後資金、病気や転職など、20代からの人生にはいろいろなことが起こります。
だからこそ、
「いくら借りられるか」ではなく、「いくらなら無理なく暮らせるか」。
ここを考えることが、これまで以上に重要になっていると思います。
住宅業界から見る「過去最高」
ニュースとしては、
「20代以下の持ち家率が過去最高!」
確かに明るいニュースです。
でも、住宅業界の中からこの数字を見ると、
「住宅購入の裾野が広がった!」
と単純に喜ぶよりも、
「若い世代への前倒しが進んでいるのでは?」
と、少し悲観的にも見えてしまいます。
人口が減っていく以上、住宅業界もこれまでと同じやり方では続いていきません。
だからこそ、これからの建築・不動産業者には、
「家を売る」だけではなく、
本当に家を買うべきなのか。
どんな家なら将来も価値が残るのか。
どこまでなら無理なく住宅ローンを組めるのか。
そんなところまで一緒に考える仕事が、ますます重要になってくるのではないでしょうか。
「持ち家率過去最高」という一つの数字。
その数字の裏側まで考えてみると、今の日本の住宅事情が少し違って見えてきます。
◻︎◻︎産経新聞 金利上昇、住宅購入急ぐ若者…20代以下持ち家率が過去最高 超長期ローンに返済リスクも
https://www.sankei.com/article/20260905-DC4QAAPIIJKPBDWFVUM222KWIY/
【本日の一曲】
The White Stripes – From the Basement (Official Performance)
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