2026 08 13

いま知っておきたい「藁苆(わらすさ)」の話 減りゆく土壁と左官職人

      ※※写真の土壁は「下塗り」の段階です※※

現在、真壁和室の土壁を改装するリフォーム工事をしています。

久しぶりに土壁を扱う現場を見ながら、ふと感じたことがあります。

「最近、和室の塗り壁って、本当に減ったなぁ」

昔の住宅では当たり前だった「真壁」の和室。柱が見えていて、壁には土壁や漆喰などの塗り壁が使われ、床の間や仏間がある。

ところが最近の住宅では、そもそも真壁ではない和室も増えました。

床の間や仏間がない和室も珍しくありません。

そして、和室そのものがない住宅もかなり増えています。

住宅のつくりが変われば、当然、そこで必要とされる職人さんの仕事も変わります。

大工さんが和室の造作をする機会も減り、左官職人さんが土壁を塗る機会も減りました。

今回は、そんな土壁の材料のひとつである『藁苆(わらすさ)』について、少しご紹介したいと思います。


そもそも「藁苆(わらすさ)」って何?

「藁苆って何?」

おそらく、ほとんどの方がそう思われるのではないでしょうか。

藁苆(わらすさ)は、日本の伝統的な左官材料で、土壁などに混ぜて使われる藁(わら)です。

土壁は単純に土だけを塗っているわけではありません。

下塗り、中塗り、そして上塗りまで、それぞれの工程に応じて、種類や大きさの異なる「すさ」が使われます。

すさには、壁の補強やひび割れ防止、曲げ強度の向上といった役割があります。

さらに、塗り材料に適度な弾性を持たせたり、鏝(こて)の伸びや離れを良くしたり、保水性を高めたりする効果もあります。

つまり、見た目にはただの「藁」に見えても、土壁をつくるうえで非常に重要な材料なのです。


とても古い歴史がある

藁苆の利用は非常に古く、日本最古の木造建築として知られる法隆寺でも、その使用が確認されています。

稲作が日本に広まり、土が建築材料として使われるようになった頃から、藁が土壁に利用されていたのではないかとも考えられています。

昔の日本では稲作が盛んで、藁は生活のさまざまな場面で利用されてきました。

その中で、廃材として出る藁を有効利用できる「藁苆」は、安価で大量に手に入る材料として全国に広まっていったと考えられます。

いわば、昔から続いてきた天然素材のリサイクルです。


藁苆は、どうやって作られる?

今回の工事で使用している藁苆は、徳島県産の商品です。

この藁苆は、薬品を使わずにアク抜きをする昔ながらの製法にこだわって作られています。

原料となる稲藁は、刈り取ってすぐのものではなく、古い藁を使用します。

長期間水に浸して十分にアクを抜き、その後、天日で乾燥。

さらに、よく叩いて藁をほぐし、必要のない節などを取り除き、再び乾燥させてから、用途に合わせた大きさに裁断して袋詰めされます。

こうして見ると、「藁を切って入れているだけ」とは、とても言えません。

土壁に適した材料にするために、昔ながらの知恵と手間がかけられています。


「すさ」にもいろいろある

実は「すさ」は藁(わら)だけではありません。

昔から藁のほか、麻などの植物繊維も利用されてきました。

また、使い古されたロープなどを再利用したものもあり、まさにリサイクル材料の手本のような存在です。

天然繊維は細かな枝状の繊維を持っているため、土や塗り材料との絡みが強く、付着性を高める効果があります。

一方、現在ではグラスウールやナイロン、ビニロンなどの化学繊維を利用した「すさ」もあります。

化学繊維は強度が高く、長さや太さを用途に合わせて製造でき、材料の中でも分散しやすいという特徴があります。

そして、すさは「下塗り」「中塗り」「上塗り」と仕上げに近づくにつれて、使用するものも短いものになっていきます。

……ちなみに今回は、肝心の壁を塗っている作業中の写真を撮り忘れました(笑)。


土壁は「乾けば完成」ではない

土壁や塗り壁は、材料や施工方法をきちんと選ばなければ、後からアクが出ることもあります。

今回使用している藁苆は、薬品を使わずにアクを抜いた、昔ながらの素材です。

こうした材料を見ていると、土壁というのは「土を壁に塗る」という単純な仕事ではないことがよく分かります。

材料の選び方、配合、下地、塗り方、乾燥のさせ方。

それぞれに経験と技術が必要です。


失われつつある「技術」をどう残すか

現在の住宅では、工期が短く、乾くまでの時間を待つ必要がない乾式工法が主流になっています。

もちろん、現代の住宅にとって非常に合理的な工法です。

一方で、その変化によって土壁を施工する機会は大きく減りました。

和室そのものが減り、さらに真壁や床の間などの造作も減っている。

そうなると、当然ながら大工さんや左官職人さんが伝統的な仕事を経験する機会も減っていきます。

このままいけば、5年、10年後には「土壁を施工できる職人さんがいない」ということが、今以上に現実的な問題になってくるかもしれません。

実際、建築業界では日本人の人口減少以上のペースで大工や左官職人などの担い手が減っていることが大きな問題になっています。

今回、久しぶりに土壁の改修リフォーム工事に携わって、改めて感じました。

古い住宅には、古いだけではない価値があります。

そこには、昔の職人さんが残した技術や、地域で受け継がれてきた材料の使い方、そして自然素材を無駄なく利用してきた知恵があります。

もちろん、すべてを昔の工法に戻せばいいという話ではありません。

ただ、便利で効率的な現在の住宅だけではなく、こうした日本の建築文化も知っておく。

そして、まだ施工できる職人さんがいるうちに、その技術を次の世代へ残していく。

不動産や建築の仕事に携わる者として、今回の土壁リフォームは、「家を直す」ということ以上に、残していくべきものについて考える機会になりました。


◻︎◻︎一般社団法人 日本左官業組合連合会 素材と工法(素材:すさ類)
  https://www.nissaren.or.jp/1232

  近畿壁材com 藁すさにも様々な種類があります
  https://www.kinkikabezai.com/blog/syohin/post-7239/


【本日の一曲】
Talking Heads – This Must Be the Place (Naive Melody) (2005 Remaster)

◻︎◻︎せとうち不動産 https://setouchi-fudosan.com/◻︎◻︎