ツバメの巣と、鳥たちの言葉の話
〜いつもの景色が少し違って見えるかもしれません〜
ツバメが運んできた、小さな幸せの風景
先日、お客様のお家の近くへ伺った時のことです。
少し時間があったので、近くのコンビニへ立ち寄りました。
ふと店の壁に目をやると、駐車場の監視カメラの上にツバメの巣。
その小さな巣の中では、雛たちが首をいっぱいに伸ばしながら、親鳥が餌を運んでくるのを待っていました。
ツバメの子どもたちって、どうしてあんなに見ていて飽きないのでしょう。
口を大きく開けて一斉に鳴く姿も、親鳥がせわしなく飛び回る様子も、どこか一生懸命で、生命力そのもののように感じます。
仕事の途中でしたが、思わずしばらく見入ってしまいました。
「縁起がいい」だけではない、ツバメとの暮らし
昔から、ツバメが家や店先に巣を作るのは縁起が良いと言われています。
商売繁盛。
金運上昇。
子宝や安産。
不動産や建築の仕事をしていると、こうした昔ながらの言い伝えを耳にすることが案外あります。
もちろん科学的な根拠だけで語れるものではありません。
けれど、長い時間をかけて人と自然が共に暮らしてきた中で生まれた感覚なのだろうなと思います。
実際、ツバメは人の出入りがある場所を好んで巣を作るそうです。
カラスやヘビなどの外敵が近づきにくいから。
つまり、人が集まる場所=安全な場所。
だから「繁盛する場所にツバメが来る」のではなく、「人が集まり守られた場所だからツバメも暮らせる」。
そんな関係性が、縁起物という考えにつながったのかもしれません。
ただ、良いことばかりでもないようです。
店の方に少しお話を聞くと、
「たまに店の中に入っちゃうんですよ」
と苦笑い。
なるほど。
糞の掃除もあるでしょうし、迷い込んだツバメを外へ誘導するのもひと苦労。
私たちはつい「ツバメだ!縁起がいい!」と思ってしまいますが、実際にその場所を管理している人には別の苦労もある。
これって、家づくりや不動産にも少し似ている気がしました。
理想や憧れは大切。
でも実際の暮らしには、管理や手間や現実もある。
その両方があってこその「暮らし」なんですよね。
それでも、あの巣を見上げていると、やっぱり少し幸せな気分になるのでした。
鳥は「鳴いている」だけじゃない?
そんなツバメを見ながら、ふと思い出したことがありました。
「鳥も、人間のように話をしているらしい」
そんな研究をしている人がいます。
動物言語学者の鈴木俊貴さんです。
東京大学准教授で、世界で初めて「シジュウカラが言葉を使って会話している」ことを科学的に証明した研究者です。
最初に聞いた時は、正直驚きました。
鳥の鳴き声なんて、私たちには「チュンチュン」「ピーピー」としか聞こえません。
感情の表現――嬉しい、怖い、怒っている。
そんな程度だと思っていたからです。
けれど鈴木さんは、20年以上にわたる観察と実験を通して、その常識を覆しました。
世界で初めて証明された「鳥の言葉」
鈴木さんが研究しているのは、身近な野鳥・シジュウカラ。
全長14cmほど、日本全国で見られる小さな鳥です。
ところが、この小さな鳥が実に複雑なコミュニケーションをしていた。
鈴木さんの研究によると、シジュウカラには200以上もの鳴き声パターンがあるそうです。
例えば、
「ヂヂヂヂ」
これは「集まれ」。
餌を見つけた時など、仲間を呼ぶ声です。
面白いのは、彼らが餌を独り占めしないこと。
「ここにあるよ」
と仲間を呼ぶ。
なぜそんなことをするのか。
それは生存戦略でした。
鳥は餌を食べる時、下を向きます。
その瞬間、空からタカに襲われる危険がある。
だから群れで見張り役を分担する。
誰かが空を警戒し、誰かが食べる。
協力して生きる仕組みが、鳴き声にも現れていたのです。
シジュウカラには「単語」と「文法」があった
さらに驚くのは、警戒音です。
タカが来た時は、
「ヒヒヒ」
蛇が現れた時は、
「ジャージャー」
単に「怖い!」と鳴いているのではありません。
「何が来たか」を伝えている。
鈴木さんは実験で、生きた蛇をケースに入れて巣の近くへ置きました。
すると親鳥は「ジャージャー」と鳴き、巣の中の雛たちは一斉に外へ飛び出したそうです。
蛇は巣の中へ侵入する。
だから脱出。
一方、タカの警戒音では巣に留まる。
つまり雛たちは、声の意味を理解し、危険の種類によって行動を変えている。
これはもう、単なる鳴き声ではありません。
言葉です。
さらにシジュウカラは「文章」まで作ります。
「ピーツピ(警戒しろ)」
「ヂヂヂ(集まれ)」
これを組み合わせると、
「警戒して集まれ」
という意味になる。
しかも順番を逆にすると理解されない。
つまり文法まであるのです。
最近では、翼を震わせて「お先にどうぞ」と伝えるジェスチャーまで発見されました。
人間だけの特別な能力だと思っていたものが、実は鳥の世界にもあった。
そう考えると、いつもの公園や森の景色が少し違って見えてきます。
森にこもった研究者と、忘れかけた感覚
鈴木さんの話で印象的なのは、研究内容だけではありません。
大学4年生の頃、3か月のフィールドワークに出かけた際、食料が足りなくなり、最後は白米だけで過ごしたという話があります。
普通なら「大変だった」で終わりそうな話ですが、鈴木さんはその時間を「楽しかった」と語ります。
好きだから続けられる。
いや、「面白い」があるから続けられる。
その熱量に惹かれます。
そしてもう一つ、忘れられない言葉があります。
子どもの頃、鈴木少年は「カブトムシは最強」と図鑑に書いてあるのに、クモに食べられる姿を見たそうです。
その時、お母さんはこう言いました。
「図鑑に書いてないなら、あなたが書き加えたらいいじゃない」
なんて素敵な言葉でしょう。
答えを覚えるだけではなく、目の前で起きていることを自分で観察する。
鈴木さんはその延長線上で、「動物は話さない」という常識にも疑問を持ちました。
そして本当に、新しい学問を作ってしまったのです。
暮らしを見る目と、鳥を見る目
私たちの仕事も、どこか似ている気がします。
土地を見る。
家を見る。
街を見る。
図面や数字だけでは分からないことがたくさんあります。
実際に歩き、空気を感じ、人の暮らしを見る。
そうして初めて見えてくるものがある。
ツバメの巣も、シジュウカラの言葉も、普段は見過ごしているだけなのかもしれません。
もし近所で鳥の声が聞こえたら、少しだけ耳を澄ませてみてください。
もしかすると彼らは、私たちが思っている以上に賑やかに会話しているのかもしれません。
そしてその世界に気づけた時、いつもの景色は少しだけ豊かに見える気がします。
◻︎◻︎小学館 僕には鳥の声がわかる 鈴木俊貴
https://www.shogakukan.co.jp/pr/bokutori/
東京大学 先端科学技術研究センター 鈴木俊貴
https://www.rcast.u-tokyo.ac.jp/ja/research/people/staff-suzuki_toshitaka.html
【本日の一曲】
Amaro _Freitas – Encruzilhada
◻︎◻︎せとうち不動産 https://setouchi-fudosan.com/◻︎◻︎