2026 07 19

なぜ日本の相続税は高いのか? 戦後から続く制度の背景と、私たちが知っておきたいこと

「日本の相続税は世界でも高い」

そんな話を耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。

実際、日本の相続税の最高税率は55%と世界トップクラスです。しかし、「税率が高い=すべての人が重い税負担をしている」というわけではありません。

日本の相続税には、戦後の歴史や社会保障制度、そして「富をどのように社会へ還元するか」という考え方が深く関わっています。

今回は、日本の相続税が高い理由と、その制度が私たちに与える影響について考えてみたいと思います。


相続税の始まりは戦費調達だった

日本で相続税が誕生したのは1905年(明治38年)です。

その目的は日露戦争の戦費を確保することでした。当初は臨時の税金として導入されましたが、その後も恒久的な制度として残り、120年以上続いています。

そして現在の制度の基礎となったのは、戦後の税制改革です。


戦後の「シャウプ勧告」が現在の制度を作った

1949年、GHQの要請を受けて来日したアメリカの経済学者カール・シャウプ博士は、日本の税制改革を提言しました。

これが「シャウプ勧告」です。

戦前の日本には家制度があり、長男が財産を引き継ぐことが一般的でした。その結果、資産が特定の家系へ集中しやすく、格差が固定化される構造がありました。

そこで導入された考え方が「富の再分配」です。

親から子へ莫大な財産がそのまま受け継がれることで格差が広がることを防ぐため、財産が多いほど税率が高くなる累進課税制度が採用されました。

この考え方は現在でも日本の相続税制度の根底にあります。


世界と比べると日本はどうなのか

日本の最高税率は55%です。

一方、

・イギリス:40%
・アメリカ:40%(ただし基礎控除は約20億円と非常に大きい)
・フランス、ドイツ:相続税あり
・オーストラリア、カナダ、スウェーデン、シンガポールなど:相続税を廃止

となっています。

数字だけを見ると日本は高く感じますが、各国は税制全体の考え方が異なります。

例えばアメリカでは基礎控除額が非常に大きいため、多くの一般家庭は相続税の対象になりません。一方、日本は基礎控除が比較的小さいため、中間層でも相続税が発生しやすいことが特徴です。


2015年改正で「一般家庭の税金」に近づいた

相続税が身近な存在になった最大の理由は2015年の税制改正です。

基礎控除額が

5,000万円+1,000万円×法定相続人

から

3,000万円+600万円×法定相続人

へ大幅に引き下げられました。

その結果、課税割合は

2014年:約4.4%

2022年:約9.6%

まで増加しました。

現在では約10人に1人が相続税の対象となっています。

特に都市部では、不動産価格が高いため、自宅と多少の預貯金があるだけで課税対象になるケースも珍しくありません。


「55%」だけを見て怖がる必要はない

最高税率55%という数字だけを見ると、「財産の半分を持っていかれる」と感じるかもしれません。

しかし実際には超過累進課税です。

つまり、すべての財産に55%がかかるわけではありません。

さらに、

・基礎控除

・配偶者の税額軽減

・小規模宅地等の特例

など、多くの制度があります。

実際の平均的な負担率は10~14%程度とされており、最高税率がそのまま適用される人はごく一部です。


相続税が「高すぎる」と感じる理由

それでも「相続税は理不尽だ」という声は少なくありません。

その理由の一つが、不動産中心の相続です。

例えば土地の評価額は高いのに現金は少ないというケースでは、納税資金を準備できず、不動産を売却せざるを得ないことがあります。

また、相続税は原則として現金一括納付です。

条件を満たせば延納や物納も利用できますが、手続きは簡単ではありません。

相続した家を売却する、ローンを組む、場合によっては相続放棄を選択するケースもあります。

制度上の救済措置はありますが、「財産はあるのに現金がない」という問題は、日本の相続税制度の大きな課題と言えるでしょう。


贈与税との関係も複雑

相続税だけでなく、贈与税についても「二重課税ではないか」という声があります。

例えば、生前贈与を受けた後、一定期間内に贈与者が亡くなると、その財産は相続財産へ加算されます。

税法上は贈与税額控除があるため完全な二重課税ではありませんが、制度が複雑なため、「結局また税金を払うのか」という印象を持つ方も少なくありません。

また、贈与税は相続税より高い税率が設定されているケースもあり、生前に財産を渡したいと思っても、税負担の大きさからためらう人も多いのが現状です。


相続税対策は「節税」だけではない

不動産コンサルティング業で相続相談を受ける時に感じるのは、問題は税金だけではないということです。

実際には、

「誰が家を引き継ぐのか」

「空き家をどうするのか」

「兄弟姉妹で意見がまとまらない」

といった相談の方が多くあります。

相続は家族全員に関わる問題です。

元気なうちから家族で話し合い、必要に応じて遺言書を準備したり、不動産の整理や活用方法を考えたりすることが、結果として最も大きな相続対策になります。


まとめ

日本の相続税が高い背景には、戦後の「富の再分配」という考え方があります。

さらに少子高齢化による社会保障費の増加や、2015年の税制改正によって、相続税は一部の富裕層だけの問題ではなくなりました。

一方で、相続税は社会保障や公共サービスを支える重要な財源でもあり、簡単に廃止できる税金ではありません。

今後は、中間層への負担軽減や基礎控除の見直し、納税手続きの簡素化など、時代に合わせた制度改革も求められていくでしょう。

相続は「税金の話」だけではなく、「家族の未来をどう引き継ぐか」という問題でもあります。

だからこそ、制度を正しく理解し、早めに準備を始めることが、家族の安心につながる第一歩ではないでしょうか。


◻︎◻︎国税庁 シャウプ勧告と税制改正
  https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/sozei/shiryou/library/19.htm


【本日の一曲】
Miho Hazama – And the Door Unsaled

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